うちのかあちゃんの得意技で、月に1度はやっていた。
何で鍋に火をかけて忘れ去るのか、ほんと理解できん。
おっちょこちょいじゃ済まされない事態だよな。
この事で結構心配させられ、迷惑もかけられたが
かあちゃんを怒った事はなかった。
老母に、ボケるな! と言うのはムチャってもんだ。
セコムに入っててほんと良かった、と素直に感謝してたよ。
有事の際に先鋒きらされるのは、毎回私だったがな。
さて、先日真っ昼間から夕飯の下ごしらえをしていた。
私の場合、腹が減ると体が動かなくなるという
餓死が簡単な体の作りをしているので
“夕飯時に夕飯を作る” という、ごく普通の事が出来ないのだ。
腹が減ったら即食う! にしておかないと
夕飯作りの前に何かを食わない限り、動けない。
が、飯前に間食をしたら飯が食えなくなる、という悪循環なので
腹が減ってない時に、最大限の準備が必須なのである。
こういう面倒くせえ事情だが、健気に努力をしている気になりつつ
その日は豚肉抜きの豚汁 (単なる具沢山味噌汁) の用意をした。
で、居間に座って何となく鏡を見たら
もう、こういう女の舞台裏を書くのは恥知らずだと思うんだが
頬に透明な長い毛が生えているのを発見!
これは多分、“福毛” とかいう野郎だと思うんだが
チークを塗る場所に1本なびいていられても困るし
何より、“歳を取ると生えてくる” とかいう福毛プロフィールが
とてつもなくプライドを傷付けるので
福だろうが悪だろうが、キレイさっぱり剃る事にした。
強気な割に、抜くと祟られそう、という小心さで剃る選択。
そんでジョーリジョーリやってたら、眉毛の乱れも気になってきて
鏡凝視で、毛抜きとハサミで百面相大会に。
天気の良い休日に出掛けもせずに何をやっとんのか
と自分に疑問を持たないほど、こういう事って一心不乱になれるよな。
すると、ヘンな臭いがしてきた。
窓を開けていたので、また近所が妙な料理でもしとんのか、と思う。
眉毛はその1本が生死の境を分けるのだ。
ご近所のメニュー事情になんか、関わってる場合じゃねえ。
その内に、パキッペキッと近くで音が鳴り始める。
ええー? ラップ音がしてるじゃん、何の霊障? で流す。
うなじは見えないから勘が頼りなんだよ!
髪をジョリッとやってしまったらどう責任を取るんだよ?
霊と言えども、この一大事に出てくるなど真の悪い事をすな!!
と、すべてを他人のせいにしつつ、お手入れを終えた後の
展開はあえて書くまでもないだろう。
気付いて最初に思った事は、「食える部分ある?」 だった。
この大惨事に一体何を思っとんのか、事の重大さがわかっとんのか
自分で自分を信用できないのは、こういうわけわからんとこが原因だ。
カレーや煮物は煮込むので、タイマーをかけるんだが
豚汁の下ごしらえだったんで、気を抜いていた。
というか、正直何で火がついているのかさっぱり記憶にないのだ。
このまま外出していたら・・・、とゾゾーーーッとしたよ。
かあちゃんもこういう気持ちだったんかな。
確かに最近、やたら頭が悪くなってきている気がするが
よく考えるとそれは生まれつきで、まだまだボケる年齢ではない。
かあちゃんの行動を思い出してみると
うちの遺伝子には、鍋焦がしの習性が添付されているようだ。
ある年齢になると記憶に蘇る一子相伝の技だったんか?
とか、今度は先祖のせいにしようとしているが
今まで鍋焦がしなど、お茶目な事をした事がない私なので
これは明らかにボケの兆候。
警備会社に依頼する財力がないので、自力で火の用心をするしかない。
これ以来、何かあるごとに指差し点呼を心掛けている。
こういうヤツが近所に住んでいるのは、ほんと恐怖だよな。
隣の空き地に不発弾が埋まっているようなもんだと思う。
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