美容マニアにあるまじき事だが、美容院が苦手である。
人に触られるのが好きではないので
ネイルサロンやエステなども行かない。
今通っている美容院の担当のおねえさんは
話も合ってとても好きなので、まだ気がラクだけど
それでも髪が伸びて、「もう無理!」 となるまで行かない。
髪がボサボサして、まとまらなくて、イライラして
そこでバッサリ切ると、ああー、すっきり! となるのが快感なんだ。
そういう妙な倒錯的快楽目的じゃなく
最近の私がカットに行かないのには、別の理由があった。
美容院のおねえさんが、髪を伸ばせ伸ばせ言うので
何となくそれが心に引っ掛かり、一応伸ばす方向に努力をしているのだ。
結局、途中でキイイイッとなって切ってもらうので
挫折エンドな我慢大会を繰り返しているに過ぎないのだが
今回は冬という事もあり、割と耐えられた。
髪が長いと、やっぱりぬくい。
しかし、忍耐的なものじゃなくビジュアル的に挫折した。
いやあ私も今回初めて知ったよ、ボブの末路を。
剛毛多毛のボブが伸びると、市松人形になるんだ。
あの裾広がりのおかっぱ、で、ババア。
これがどんだけ、おどろおどろしいかわかるか?
我ながら、鏡の中の自分にビビらされたよ。
地産地消の呪いを受けそうな勢いで、己が不気味だったぜ。
それでも帽子を駆使して、乗り越えようとしてたんだけど
朝起きて洗面所の鏡の前で突然プチッときて、そのまま美容院へ。
受付けのおねえさんが、「おおっとー」 ともらすほど
あの時の私はモウモウとしてた。
ありえん寝癖で、メデューサとかゴーゴンとか、あのあたり風味。
そんなヤツが美容院にいるのは、営業妨害になりかねんせいか
すぐシャンプー台にまわされたさ。
本当に申し訳ございません。
郵便局の窓口にいるかのごとく、切って切って騒ぐ私に
担当のおねえさんが、「ボブですね?」 と訊くので
ボワボワのストレスで、坊主にしたい勢いだったんで
つい、「ボブにこだわらず、ショートってのは?」 と口走り
それを聞いて、おねえさんがハッとした顔をして
「私に任せていただけますね?」 と言った後
こっちの返事も待たずに、バッサバッサ切り始めた。
ちちちょっと待て! とは思ったけど、髪なんてどうせ伸びるし
滅多にカットに来ず、カラーリングもパーマせずに
同じ髪型にばかりしている、細くつまらん客なんで
たまには言う事を聞かんと、バチが当たる。
出来上がりは、ベリーショート。
ちょ、ブサイクは髪で顔を隠さんとマズいだろ、と一瞬とまどったけど
これが中々似合うのだ。
「本当に何故これを思いつかなかったのか
ボブという言葉に惑わされてたんですよねえ。」
ロングのタイプだと思っていたけどショートもすごく似合いますよ絶対に道行く人に良い意味で振り返られますよモデルみたいですもんすごくスタイリッシュで良いですよ
一見、私に対するお世辞のようだが
元々このおねえさんは、お世辞を言わない人なので好きなのだし
はしゃぎようを見ていると、渾身の出来だという自画自賛なのがわかる。
今になって冷静に考えると、いくら振り返られても
ガックリこられる確率が上がるだけじゃねえか? ってだけなんだが
その時は、ベリーショートの意外な似合いように
おねえさんと集団ヒステリーを起こしたかのごとく
キャッキャと相手の褒め合いをしまくり
美容院を出た後も真っ直ぐ帰らず、ウキウキと街をウロついた。
女性ならこの気持ちはわかるだろ?
さて、このベリーショートには大きな欠点があった。
おねえさんも私も、何故それを思い出さなかったのか?
おねえさんは大風邪を引いていた。
私は呪われた人形風情のイラ立ちでテンパってた。
この2つのタッグが、冷静さを奪ったのであろう。
私はここでも何度も言ってる通り、剛毛多毛である。
それに “寝相が悪い” が加われば、コスプレイヤーになる。
現在、毎朝うちの洗面所の鏡には、悟空が映る。
この髪の起立は、シャンプーするまで直らない。
ためしに3日放っといてみたら、3日間直立不動だった。
宅配のおにいさんには、ドアを開けた瞬間
「あっ、すいません」 と言われた。 夕方なのに。
もう、悟空の格好をしていないと、逆に異様に思われるだろうが
「おっす、おら悟空!」 とか、やりたくもねえ。
プラス、もっと最悪な事が待っていた。
苦労して何とか髪を寝せるのだが、驚いた事に鏡にはおっさんが映るのだ!
メイクをすると、女装したおっさんになる。
あの美容院でのイケてた私はどこに行ったんだ?????
ただでさえない色気がマイナスになると、腐った男気が出てくる事を発見!
あああああああああああああああああああ
これがババアのジジイ化現象かーーーーーーーーーーーっっっ
まさか我が身でそれを実感する日が来るとは
さすがのブサイク自覚でも、予想だにしなかったよ・・・。
美容院で絶世の美女になっても、家での再現が出来ないのは世の常なれど
性別まで変化してしまうのは、やっぱりベリーショ-トは似合わん
って事じゃないだろうか。
あんなに喜んでいたおねえさんに、私の実力不足が申し訳ない。
全体像で見たら、かろうじて女性に見えるので
しばらくはヒキ専門の立ち位置をキープするよう頑張るよ。
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