この記事は、高熱で寝込んでいる時に見た夢。
細切れの展開で、途中までしか見ていないけど
とてもよく出来た夢だったので、小説にしてみた。
と言っても、小説など読んでたのはガキの頃だけなんで
小説の体を成していないかも知れないのは、ほんとすいません。
アッシュは門の前でとまどっていた。
目の前に広がっているのは、腰丈ぐらいに伸びた枯れ草の原。
その彼方にポツンと建っているのは
そっけない古いホテルのような外観の家だ。
まさかこんなに広大な土地と家だったとは。
家って言うか、・・・何だろ、建築物?
フランスかどっかに、こんな城があった気がする。
城という名に惹かれて観光に行ったら肩透かしー、みたいな?
曇った空と冷たい木枯らし、枯れ野原の向こうに古い洋館
心も体も冷え冷えになるような寂しさを感じるが
とりあえず、門の錠前を開けようと鍵穴に鍵を差し込む。
ところが錠は図体ばかりデカくて、大味なピンっちゅうの?
それが中々鍵に引っ掛かってくれず、どんどんイライラしてきて
鎖に繋がれた錠をガスガス揺らしながら
しまいにゃガンガン門に叩き付けて、ゴリ押しでやっと開ける。
その後、門にグルグル巻きにされた太いチェーンと格闘すると
手が赤錆でザラザラに染まってしまった。
破傷風菌がウジャウジャいそうで気色悪い。
早く手を洗いたい。
門は、キエエエエエエ と、ありえない音を発して開いた。
ところで、敷地内に入って気が付いたのだが
門の前からは、石畳の道が建物の方に続いていて
その道以外の場所は、草ボウボウなのだが
その石畳から門の左側に獣道が出来ていて
塀側の終点に木製のドアがあった。
あれ? 向こう側に別にドアがあったんだ・・・
と、ドアの取っ手をひねると、簡単に開く。
何じゃ、こりゃあ!
こんなラクショーなドアがあったんかよ。
じゃ、今度からこっちから出入りするよ!
怒りつつも、律儀に門に鎖を巻き直し、錠前を掛けた。
こういう几帳面さが、アッシュの長所でもあり短所でもある。
だけど、この獣道はたまに見回りに来る人の形跡じゃないよな。
毎日誰かが通っているような?
そんな話聞いてない、やだ何恐いー!
と、棒読みで考え、薄笑いを浮かべた正にその時、横から声がした。
「ちょっと、あんた」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ」
悲鳴を上げて尻もちをついた時に、中年女性とその手元に鎌が見えた。
ホラー! ホラーじゃん、これホラー!!!
だよね、あの不気味門で気付くべきだったんだ
設定、全部丸ごとホラーの始まりじゃん!
古びた洋館で嬉々として殺人を繰り返す鎌ババア
異国の寒空の下、凍えゆく心と体に危機が迫る!
湯煙旅情の果てに行き遅れナイスバディが見たものとは?
脳内で叫んでいるつもりが、ホラーホラー呟いてたようで
「・・・頭の弱い子とは聞いてなかったよ。」
こりゃ参ったねえ、とババアは鎌で草を刈り始めた。
・・・・・・・・・・
あっ、草刈り? だよねえ、草、刈らないとね、草刈りね。
と、自分の大袈裟な反応を恥じつつ、それをなかった事にしようと
サッと立ち上がり、いかにも落ち着いてますよ、という声で言った。
「失礼いたしましたー。 私はアッシュと申しましてー。」
「あんた、妹だろ? グレーから聞いているよ。」
「兄を知っているんですかー?」
「うん、まあね。」
「で、兄は何故死んだんですかー?
てか、何故ここに住んでたんですかー?」
「ま、案内がてら教えるよ。」
鎌ババアが着いて来るよう顎で促し、スタスタ歩き出したので
手から落とした荷物を慌てて掴んで、アッシュは後を追った。
鎌ババアの後ろを歩きつつ、全身をなめまわすように観察した。
明るい茶色の無造作ショートヘア
ノーメイクだけど、作りは悪くなかったであろう顔
薄手のカーディガンと、ブラウスにロングフレアスカートで
全身ボンヤリした微妙なグラデーションのベージュでまとめて
靴はバックスキン風味の編み靴って言うんかな。
体型は巨乳、巨腹、巨尻、身長は150cm前後?
こういうタイプが一番年齢不詳なんだよなあ
でもスタンダードな田舎英国風マザーだよね、あるあるあるある。
と、ひとり納得していたら、前から女性が歩いてきた。
「おはよう」
「はい、いってらっしゃい」
鎌ババアとそれだけ交わすと、女性はアッシュに目もくれず
あごを上げて、ピンヒールをカツカツと鳴らせて木戸から出て行った。
え? え? 何で? 何で人が出てくんの?
ここ住人がいるわけ? 何で? 兄はもういないのに???
アッシュの動揺など、知ったこっちゃない、と先に進む鎌ババアに
たまらず、声を掛ける。
「すみません、鎌・・・いや、あのすみません、あなたのお名前はー?」
「あたしゃ、ローズ。 さっきの女はリリー。 香水臭い女だろ?」
確かに女性が通った後には、香りの帯が出来ている。
「いや、そういう事じゃなくて、ここ住人がまだいるんですかー?」
「だから道々話すから。」
「はあ・・・。」
何をもったいぶってるんだろう?
そもそも、この女性は何者なんだ?
てか、門から建物まで遠すぎ! 送迎バスを出す距離だろ、こりゃあ。
荷物が肩にくい込み、子泣きジジイのようにどんどん重く感じ始め
イライラしてきたと同時に、何かどんどん臭くなってきた。
草刈ったら臭かった、フッ・・・じゃなくて、この臭いは何なんだろう?
何の臭いか言われても、よくわからん、とにかく臭いっぽい
としか表現できないんだけど、あえて言えば街中のドブ川のような?
初対面で臭いの質問なんかして良いもんだろうか?
と、礼儀作法について迷いに迷いまくっていたら、玄関ドアに着いた。
デカい両開きの木製の装飾ドアである。
うわ・・・、こんなデカい建物だとは思わなかった。
相続税、いくらになるんだろ?
こりゃあ相続放棄しかないんじゃないのか?
アッシュが息切れでゼイゼイ言いながら、見上げて恐れたそのドアを
鎌、いや、ローズが重そうに押し開けると
中から猛烈な臭気があふれ出た。
こりゃ臭いわけだわ!
アッシュは一歩入って、全理解した。
本来なら広くて立派だったであろう玄関ホールは
四方八方隅々に積み上げられた荷物ゴミその他で丸い空間になっていた。
何なの? このゴミの山、ここ、ゴミ屋敷なのー?
アッシュは、ザツな言動のせいでよく誤解されるが
神経質で真面目で、少々潔癖症な面もある。
それがこんな場所に、足を踏み入れてしまうなど
自分でも信じられずにいたけど、ここは兄が残した物件で
アッシュは相続をどうするかを決めに来たのである。
右から左に売り払おうにも、とにかく見ておかないと話にならない。
しっかし、この玄関ホールだけで
私の住んでる賃貸マンションが丸ごと入るんじゃないんか?
田舎とは言え、広い上に何か豪勢だよな。
ボーッと天井のシャンデリアを見上げて妬んでいたら
いきなりローズに突き飛ばされた。
ゴミ山に横倒しになり、もちろん痛かった。
予想をしていなかったので、首も座ってなく
グキッとかやって、ちょっとムチウチ気味になった。
しかし文句を言う事すら出来なかった。
振り向いたアッシュが目にしたものは
首の皮膚が斜めに切られて、血を噴き出して倒れる男の姿だったからだ。
倒れた男は白目を剥き、体全体を大きくけいれんさせている。
アッシュのジーンズに、その血がパスパス掛かった。
続く。
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