「さあ、ローズさんからものすごーーーく褒められて
やる気が出たんで、ちゃっちゃと行きましょかねー。」
アッシュがイヤミっぽく冗談を言いつつ、廊下を歩いて行く。
ドアのひとつひとつをへっぴり腰で覗いていた時とは大違いである。
ほんの一日二日で・・・。 この変化は進歩なんだろうか?
アッシュの変わりようを、“成長” と喜びつつも
初めて出会ったようなこの人物を、どうしてもいぶかしんでしまうローズ。
「ちょっ、あんた、そんなにスタスタ行くと」
危ない、と言おうとしたその瞬間、案の定ドアが勢い良く開いた。
走り出て来た人影は、アッシュに向かって叫んだ。
「あたしが殺ってや」 ジャキッゴスッ
アッシュが素早く警棒を出し、女の首筋に振り下ろした。
先日のローズのように。
よろける女性に鋏を突き刺すローズの背後で、アッシュが騒いだ。
「いっっってええええええええええええええええ!
ほんとに痛ええええええええええええええええええええ!」
警棒をはめた右腕を抱えながら、うずくまるアッシュ。
「警棒がね、こう、ね、骨に、ゴリッと、痛みがね、うううーーーーー」
ああああ・・・、もう本当に始末に終えないヤツだね
冷ややかな目ながらも、アッシュの警棒を外してあげるローズ。
「殴るのも殴られるのも、同じに痛いんだよ。」
そうだよね、人を本気で殴るなど、一生経験しない人も多いもんね
武器で殴っても、こんなに痛みが伝わってくるんだ・・・
映画なんか、平気で殴り合いしてるけど
あんなん、よっぽど鍛えてないと無理なんじゃん。
しばらくのたうち回っていたアッシュだったが
フラフラと立ち上がり、涙に濡れた瞳でローズを見つめた。
「ローズさん、1発で何なんですけど、私やっぱり戦闘ムリですー。
すっげー痛いですー。
骨にヒビぐらい入っとるかも知れませんー。
よって、今後のバトルは全逃げに徹しますー。
つまり、あとよろー、って事ですー。 良いですかー?」
「えらいあっさりと諦めるのもどうかとは思うんだけど
その方があたしもやりやすいし、それで良いよ。」
「お互いに得意分野で勝負しましょう、って話ですよねー。」
あんたに得意分野ってあるんかい、と、ここで突っ込めば
アッシュの良いカモになれたんだが
ローズはアッシュの軽口はとことん無視に回っていた。
その態度は結構、正解だった。
アッシュをそれ以上、見下す事態にならないで済むからである。
「じゃ、この階をグルッと一周お願いしますー。
私は後ろから付いて行きますんで。
あ、ドア全部開けつつ、どうかなにとぞー。」
イラッとしながら歩き出したローズの背中に
倒れている女を見ないよう、アッシュがぴったりと張り付く。
「うっとうしいねえ、もちっと離れな。」
へへ、とアッシュが笑った。
可愛いと思えなくもないんだけど、何だろね、このカンに障る感じは。
その突拍子もない言動で、得体が知れない印象を与えるアッシュだが
ローズの感じる違和感は、アッシュの持つ闇を敏感に察知していた。
ローズは正に、常に生き残れる兵士の感覚を備えていたのである。
続く。
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