アッシュはベッドの中で、天井を見つめていた。
はあ・・・えらいな大口を叩いてしもうたが、どうすんだよ?
守るとか戦いをやめるとか、一民間人に出来るわけがねえじゃん
相続したら、マジどうすんだよ?
つーか、相続できるかどうかもわからんわけじゃん
今日殺されるかも知れないんだし
相続後の事は、相続できてからで良いんじゃね?
まずは生き残る事を重点に考えるべきだろ
でも相続してからどうするか考えても遅くね?
反乱されて即死とかシャレにならんわけだし
今からでもボチボチ考えておいた方が良くね?
てか、今まさに命の危機なんだから
他の事に気を取られてる場合じゃなくね?
ああー、ほんと何であんなデカい口を叩いたんだか
こっちはしたくてしてるわけじゃないってのに
人殺し人殺し連呼されて、すんげームカついたんだよな
こういうのを墓穴を掘るっちゅーんだよー
でも、だったらどうすれば良かったわけ?
すいませんすいませんなわけ?
襲ってくる方が悪くね? あの女の人も八つ当たりじゃね?
でも親しい人が殺されたら、そりゃ怒るわな
気持ちはわかるし
でも戦争ってそういうもんじゃね?
そういうのも覚悟して参加すべきじゃん
てか、私、参加したくてしてるわけじゃねえし
だったら、さっさと殺されれば、戦闘は終わるわけじゃん
何でそんなんで私が死なにゃならんのだよ?
てか、私が死んでも次の相続者が来るわけじゃん
だったら、とっとと相続して、戦うシステムをなくせば良いんじゃん
だからそのシステムとか、どうすんだよ、って話じゃん
アッシュは、勢いに任せて振るった熱弁を、早々に悔いたせいで
てか、でも、だって、と思考を空転させまくって
一睡も出来ずに、一晩中悶々としていたのである。
しかも食堂の方では、夜遅くまでザワついていた。
自分が言った事に住人たちが反応してるんじゃないか、と思うと
恐ろしくて、部屋の外に出る気になれない。
ああ・・・何であんな事を言っちゃったんだろーーー
アッシュは布団をかぶって、ジタバタもだえ苦しんだ。
アッシュの想像通り、住人たちの話題はあの事一色だった。
アッシュが出て行った後の食堂は、しばらく静まり返っていた。
最初に口を開いたのは、ローズであった。
「あんたの彼氏を殺したのはあたしだよ、アッシュじゃない。
恨むんなら、あたしを恨みな。
だけどね、戦うヤツらは皆、覚悟してやってんだよ。
自分で決めてやってるんだよ、強制じゃない。
ま、あんたの気持ちもわかるから
カタキをとりたいんなら、いつでも受けて立つよ。」
ローズは立ちすくむ人々を前に、堂々と声を張り上げた。
「来たいヤツは来ればいいさ。 返り討ちにしてやるよ!
それがあたしの役目なんだ。」
再び沈黙の時間が流れた。
次に口を開いたのは、屈強そうな男だった。
「そうさ。 それが俺たちの役目だろう。
恨まれるなんて、筋違いじゃねえか?」
それが開始の合図であるかのように、人々から次々に言葉がこぼれる。
「でもやっぱり知り合いが死ぬのは気分の良いもんじゃないだろ。」
「自分で決めたんだろ。」
「死ぬつもりでやってるわけじゃねえよ。」
「死ぬ可能性が充分にあると普通わかるだろう
そんな事も考えずにやってるなんて、おまえバカか?」
「何だと、この野郎!」
「やるんかよ、このクソ野郎が!」
つかみ合いが始まり場が騒然となった時に、甲高い女性の声が響いた。
「でも!」
声の主は、まだ10代らしき可愛い女の子だった。
「でも、あの人は皆を守る、って言ってました。
戦わなくて済むようにする、って。」
「そんなの出来るわけがないだろ。」
中年女性が失笑しながら、吐き捨てるように言った。
「まったくガキは夢見がちで目出度いさね。
ここはずーーーっと、こういうしきたりなんだよ。
ずーーーーーっと、そうやってやってきたんだ。
それを変えるなんて、何も知らないよそ者のたわごとさね。」
「そうじゃ。 ここはずっとそれでやってきた。」
老人が部屋の中央に進み出た。
「主は全員よそ者じゃったのに、変えるなんて言ったヤツはおらんよ。」
老人のその言葉は、賛同とも批判とも取れるので
全員が次の言葉が見つからず、黙りこくってしまった。
食堂の中はおろか、廊下にまで人が溢れていた。
騒ぎを聞きつけて、南館からも住人が集まってきていたのだ。
続く。
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