「また昼まで寝てる!」
片足を壁に立てかけ、大股開きでヘソを出して寝ているアッシュに
ローズが仁王立ちで怒鳴りつけた。
他人の怒号で目覚める朝・・・
ちょっと幸せを感じるアッシュ。
蹴り落とされた布団をたたみながら、ブツブツ怒るローズ。
「あんた一体どういう寝相をしてるんだい。
そんなこっちゃ、風邪を引くよ。」
モソモソと起きだすアッシュに、タオルを投げつけ
「一時間で用意しな! 今日は動くよ!」
そう行って、ローズは部屋を出て行った。
ああ・・・、毎朝ローズさんにモーニング説教をしてもらいてえ
こういう状況でホノボノとするなんて、私も大概、愛に飢えてるんだなあ
歯を磨きながら他人事のように思う、反省のカケラもないアッシュ。
「用意できましたー。」
ローズの部屋をノックすると、大鋏とともにローズが出てきて訊く。
「さあ、今日はどこへ行くんだい?」
「えっ、その前にお茶でも入れてくださいよー。」
「ああー?
あたしゃあんたを待ってる間に6杯飲んで、もう水腹なんだよ!」
「えええーーー、私、まだ何も飲み食いしてないんですよー。
ローズさんのお茶とクッキーが食べたいですー。」
「まったく、図々しいったらないね、この子は!」
ブリブリ怒るローズを、アッシュがヘラヘラ笑いながら部屋に押し込む。
ローズがイラ立って、床をかかとでカツカツ踏みつつ
鋏をジャキンジャキン鳴らしている前で
アッシュはスコーンを頬張っている。
「あのー、落ち着かないんで、やめてもらえませんかねー。」
アッシュが懇願すると、ローズが鼻息を荒くした。
「あたしゃ、毎日毎日あんたを待って待って待って
ほんとイライラしているんだよっ!」
その言葉を聞いて、アッシュは思わず立ち上がり
鋏を持つローズの手を両手で握り締めた。
「ローズさん・・・、嬉しいですー、ありがとうございますー。」
「なっ何だい、わけのわからない事ばかり言うんじゃないよ!」
ローズが慌てて、アッシュの手を振り払う。
「待ってくれるなんて、愛ですよー、ほんと嬉しいですよー。」
「愛じゃない! 義務なんだよ!!」
「愛ってそういうもんですよねー。」
ああもう、こいつはっ!
益々イラ立つが、その気持ちがわからないでもないのが、また腹立たしい。
「ん? そういえば、盗聴ゴキブリはどうなった?」
「ああ、あれ、勘違いですねー。
よく考えたら、そんな面倒な事をしなくても
カメラにマイクを付けてれば良いんですよ。
あれ、本物のゴキブリですよー。」
「じゃ、あんたは本物のゴキブリを追ってたんだ?」
うっ・・・と、アッシュがスコーンを喉に詰まらせた。
そう言われればそうだ、ヒイイイイイイイイイイイイイ
慌ててアッシュが手を洗いに行くのを横目で見ながら
バカめ、とローズがせせら笑った。
洗った手の水をブルブル飛ばすアッシュに
「あたしの部屋を汚さないでくれ!」
と、ローズがタオル第二弾を投げつける。
廊下はあんなに汚いのに・・・と思った瞬間
「あっっっ!!!」
「なっ何だい、いきなり!」
「ローズさん、この館、増築してますよねー?」
「ああ、そうだね。」
アッシュは少しちゅうちょした後、上着の下から写真を取り出した。
「これ、どこにあるかわかります?」
「・・・あんた、今その写真をどっから出した?」
「身に付けてるのが一番安全なんですー!」
「うわ、生温かい・・・」
ローズが汚物をつまむように、写真を持ち上げた。
「ん? この写真どこにあった?」
「兄の置き土産ですー。」
「へえ、あんだけチェックしてたのに、グレイもやるねえ。」
「じゃ、この写真は凄いヒントなんですねー?」
「・・・さあ・・・何のヒントになるんかね、これが。」
「言えないんですか?」
「うーん、私には判断が付かないから言わないでおくよ。
お互いに失格は避けたいだろ。」
再び腹に入れようとした写真を見て、ローズが止める。
「ちょっと待った、その裏、何て書いてあるんだい?」
ローズの目をジーーーッと見て、アッシュがそっけなく答えた。
「秘密ですー。」
「何でだい?」
「私にも意味がわからない言葉なんですよー。
どうせ大した事じゃないとは思いますけどー。
というか、知ってて言えないのも辛いでしょうから
これからはもう、あまり質問はしないようにしますよー。」
「へえ、ありがたいねえ、思いやってくれるわけだ?」
ローズの顔が少しほころんだ。
「ローズさんには、色々と負担を掛けちゃってますしねー。」
「じゃ、さっさと食べな。」
「イエッサー!」
アッシュは座って、再びフォークを手にした。
続く。
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