あれ? また何か忘れているような・・・???
アッシュの忘れている事など、ひとつやふたつじゃない。
何を忘れているのか忘れるようになると
人生もそろそろ終了、って事だ。
「忘れたくても思い出せないんで、忘れられない事ってありますよねー。」
「えっ? 忘れたくて? 思い出せないで?」
「気にしないでくださいー。 ほんのたわ言ですからー。」
「はいはい、じゃ、今日はどこ行く?」
アッシュがイヤそうな顔をして、紙にアミダくじを書き始めた。
「ここまでお世話をしてもらって
『今日は行きません』 じゃ済まないですよねー。
ほんと、行き詰ってるんですけど
無謀な探索はムダに危険で、ほんとやりたくないんですけど
ローズさんの気持ちに応えるには、命を削る以外にないですよねー。
♪あっみだっくじ~あっみだっくじ~♪ っと。
はい、今日は南館の1階ーーー。」
「・・・いや、無理に行かなくても良いんだよ?」
「すいませんー、悪ふざけが過ぎましたー。
真面目に行きますー。
どうせ八方ふさがりだし、こうしててもしょうがないですし
とにかく動くのも手ですよねー。」
では、今日もよろしくお願いします、と
アッシュはローズに深々と頭を下げた。
「じゃあ、行こうかね。」
ふたりは部屋を後にした。
玄関ホールに着いた時に、アッシュは聞き覚えのある音を耳にした。
コォォォン
「あっ、丑の刻参りー。」
その瞬間、背後でチーンという音が鳴った。
「ぎょああああああああああああああっっっーーー!」
飛びついてきたアッシュに、ローズが怒鳴る。
「何やってんだい!」
ドアがガーッと開き、中から女性が出てきて
ローズとアッシュを一瞥して、カツカツと玄関ドアを開けて出て行った。
きつい香水の残り香が帯になっている。
「何だ、リリーかい。」
「え? あれー? ええー?」
アッシュは、リリーが出てきた方と出て行った方を交互に見る。
そして上の階を見て、やっと気付いた。
自分の部屋のバストイレの横の空間は、エレベーターだったのだ。
「ああーーーーーーーーー、なるほどーーーーーーーー!」
このエレベーターのドアは、2階 ~ 4階にはない。
多分1階から5階か6階に直通なのだろう。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってやつかあー。」
って、ちょお待って!
「撤退ー! 一時撤退ーーー!」
アッシュが急に階段を駆け上り始めたので、ローズも慌てて後を追った。
3階の踊り場まで一気に来て、ゼイゼイ言いながらローズに訊く。
「今の人、リリーさんって言うんですかー?
何をしている人なんですかー?」
「それは・・・」
「はい、言えないですよねー、あの人、主の秘書でしょー?
いつもスーツを着て、キレイにメイクして
どっかに出掛けてますもんねー。
今、上から出てきましたよねー?
と言う事は、主の部屋は上にあるんですよねー?
って、ああっっっーーー???」
再びアッシュが玄関ホールに駆け下りる。
ローズが追いついた時には、アッシュは玄関ドアの前に立ち
ガバッと服をめくった。
「ちょ、ちょっと、あんた、何を?」
ウロたえるローズを無視して、写真を取り出して凝視していたアッシュが
ローズの方をグリンと向いて、興奮して叫んだ。
「これ、ここですよねー!」
ええーーー? て事はー、この2階建ての建物がこの館の元の姿で
ここのこっから先は増築だとしたら
昔からある部分って、南北の1~2階の途中の広さまでで
歴史と伝統歴史と伝統歴史と伝統 ああっ、わからん!!!!!
ゴンゴンと玄関ドアに頭を打ち付けるアッシュを、ローズが心配して止める。
「おやめ、それ以上バカになったらどうすんだい!」
アッシュがローズの顔を見上げた時、その向こうに人の顔があった。
ヒッ と、恐怖におののくアッシュ以上に
その人の顔は、恐怖に強張っていた。
その人は、ガラス窓の向こうに座っていた。
「だ、誰ー?」
「ん? ・・・ああ、何だ、管理のじいさんだよ。
館に入ってくる人の受付けさね。」
「・・・あんたたち、大丈夫かね・・・?」
ちょっとガラス戸を開けて、おそるおそるじいさんが声を掛ける。
「この状況下で 『大丈夫』 とは、八つ当たりされたいんですかねー!」
鬼のような顔で、アッシュが野太い低音を発すると
じいさんは、ビクッとしてアワアワと戸を閉めた。
にしても、見えていない事が多すぎる!!!
アッシュは自分の観察力のなさに腹が立ち
腕組みをして、じいさんを睨み続ける。
ただ単にアッシュの視線の先にじいさんがいた、と言うだけなのだが
じいさんは生きた心地がしなくなり、奥の部屋に避難して行った。
「こらこら、アッシュ、いい加減にしな。」
ローズが優しい声でなだめようとする。
「どうするんだね? 戻るかね?」
「んーーーーー・・・・・」
アッシュは考え込んだ。
どうも主の部屋は最上階のような気がするんだけど
この写真がどうにも引っ掛かる。
あえて昔の館の写真を、兄が隠しておいたのには
絶対に深い理由があるはず。
ここは、意味がわからなくても
1階と2階に注目すべきなんじゃないだろうか?
「いえ、あみだの神様に従って予定通り行きましょうー。」
アッシュが決断した。
続く。
関連記事: ジャンル・やかた 26 09.11.13
ジャンル・やかた 28 09.11.19
コメントを残す