ジャンル・やかた 31

広くキレイな会議室の大テーブルの上には
アフタヌーンティーセットが置かれていた。

「で、この広いテーブルのこの隅っこで
 ふたり隣同士でせせこましく座るわけですかー?」
「ふたりで話すのに、何で5mも離れて座らにゃならんのじゃ。
 すまんが、近くで話をさせてくれんかのお?」
「セクハラしたら、はちくり回しますからねー?」
「ふぉっふぉっふぉ、わしもまだまだ長生きしたいんで
 そんなメデューサに言い寄るようなマネはせんわい。」
「・・・ついに化け物扱いですかいー・・・。」

「さて、この館の種明かしをするとするか。」
「私、返事しないけど聞いてますから、ひとりで喋ってくださいねー。」
アッシュがクッキーをボリボリ食い散らかす。
「わしゃ、いつ食えるんかのお?」
「あんたの話の長さ次第でしょうがー!
 いらん個人の感想は省いて、箇条書きで話せばよろしいー!」

ふうー・・・、わし、虐待されとるのお、と溜め息をついて
ジジイの独演会が始まった。

「ここには鉱山があるんじゃ。 質の良い鉱石が取れての。
 それでここら一帯は潤って、クリスタルシティができたんじゃ。
 あの街が、ここの母体じゃよ。」
「えっ? この先の村じゃなくて、あのおっきな街ー?」
「そうなんじゃ。
 この先の村は、クリスタルシティとここを繋ぐ拠点なんじゃ。」
「へえー、裕福なんだー。」
「そう。 その裕福さで、クリスタルシティは国の干渉を跳ね返し
 この館と村を隠し持つだけの権力を持っとるわけじゃ。
 名もなきあの村とこの館は、地図にも載っとらん。」

「この館は、元は孤児院だったんじゃ。
 鉱山の事故で親を亡くした子供たちのな。
 じゃが、技術の発達で事故も減って
 孤児が減る代わりに、身寄りのない者が住むようになってな。
 この国は、 特にこの地方は鉱山の利権争いもあって内戦も多かったし
 元々気性が荒い者が多い土地柄もあったんかのお。
 そんな中でも、戦争が終わっても社会に馴染めないヤツがいて
 犯罪を起こしたり、孤独死したり、まあ悲惨な人生を送るんじゃ。
 子供から年寄りまで、そんな経歴のヤツがここに来るんじゃよ。
 犯罪歴があって、身寄りのないヤツばかりじゃ。」

「えっ、でも、ローズさんとバイオラさんは姉妹ですよねー?」
「ああ、あの子らは親がいなくて、幼い頃から姉妹で
 盗みや引ったくりを繰り返して、ふたりでここに来たんじゃよ。
 ローズはまだ4~5歳じゃなかったかな。」
「はあ・・・、そうだったんですかー。」
「たまには、そういう子らもいるんじゃが
 ここは身寄りがないのが原則だから
 結婚したり、子供が出来たりしたら、出て行かねばならん。
 ここの事は一生秘密にせねばならんで
 それを破った者は暗殺される、という条件付きじゃがな。
 この守秘義務を守れる自信がない、とか
 一般社会で生きて行く勇気がない者は、一生をここで過ごすんじゃ。
 年老いて動けなくなった者や病気の者は、村の施設に移るがの。」

「思ってたより、重い背景なんですねー。」
「じゃないと、殺人ゲームなどせんじゃろ。」
ふぉっふぉっふぉ、とジジイが笑い、アッシュが引きつる。

「相続者はな、年に一度新聞紙面で募集を掛けるんじゃよ。
 『主 求む』 この一文のみでな。
 新聞がない時代は、張り紙をしたらしい。
 これに興味を持って、問い合わせてきた者の身辺を調査する。
 相続者の条件は、クルスタルシティ管轄外の出身者で
 一応、主候補じゃから、普通の家庭に育ち犯罪歴がない、は当然で
 そして一番重要なのが、身寄りがない事。
 最後に面接をして、選ばれた者が挑戦しに来る、ってわけじゃ。
 ここまでは全部、クリスタルシティの長老会がする。」

「ちょっとおー、うちの兄、身寄りがなかったですかあー?」
「その話は後でするから、ちょっと待っとれ。」

ジジイは紅茶をひと口飲んだ。
「むっ、濃いのお。 こりゃいかん! いかんぞ!」
アッシュがお湯をドバッと継ぎ足す。
ジジイ、無言の圧力に屈して、話を再開する。

「・・・クリスタルシティ長老会の最初の頃の思惑はの
 街に犯罪歴のある身寄りのない者を野放しにしておきたくはない
 だが、そんなヤツらが館で大人しくしておくはずもない
 そこで “相続” と称して、このゲームじゃよ。
 言わば娯楽の一環なんじゃ。」

「つまり “生け贄” だから、相続者はよそ者を選ぶんですねー?」
「そうだったのかも知れんなあ。
 じゃが、わしはそうはならなかった。
 来る者来る者をバッサバッサと・・・」
「誇張した武勇伝は後で聞きますからー!」

「う・・・む、えーと、何じゃったかな、とにかくな
 すべてをもみ消してもらう代わりに、口を閉じていなければならない。
 この館に関わってきた者は、すべてこの掟に縛られる。
 大昔からこうやってきたから、今更修正も出来んのじゃ。
 重ねた罪が膨大に膨れ上がってしもうとるからな。
 ここは、豊かなクリスタル地方の暗部なんじゃよ。」

「そのうち “事故” で、村ごと消されるんじゃないっすかー?」
「あんた、恐ろしい事をサラッと言うんじゃな・・・。
 じゃが、それをやっても無理じゃろう。
 ここを出て、子孫を作った者も多くいる。
 長老会にもそういう出がいて、ここを守っとるんじゃよ。
 わしも主を引退したら、長老会に入るんじゃ。
 3年主を務めて生きて交代出来たら、引退後に恩給が出る。
 15年務めたら、長老会に入る資格が貰えるんじゃ。
 わしゃ、余生はクリスタルシティで権力ライフじゃよ。」

「なるほど、それが主の特典なんですねー?」
「そうじゃ。
 昔は交代にも一騎打ちが必要じゃったが
 わしの前の代が、長老会を説得しての。
 それでこんな、かくれんぼみたいなルールになったんじゃ。」

「あれ? かくれんぼだったら、見つかっても死に掛けないんじゃー?」
「アホウ! 見つかって、はい終わり、なわけないじゃろ!
 扉を開けたら、刃物が飛び出るぐらいの仕掛けはするわい。
 それで負傷したヤツが、事もあろうに逆上してな
 あやうく殺されかけたが、わしの剛力で返り討ちにしてやったわい。」
ジジイが大威張りしているとこに、アッシュがおそるおそる訊ねる。

「下の部屋、どこが本来の入り口だったんですかあー・・・?」
「あそこは管理人室側のドアから入るんじゃ。
 わし以外の掌紋のヤツが入ると、矢が6本飛んでくる予定じゃったが
 あんた、壁を壊して入って来たからのお。
 まあ、その運の良さも主になるには必要、という事なんかのお。」

高笑いするジジイの横で、アッシュは青ざめていた。
そしてこの時ほど、自分の粗暴さに感謝した事はなかった。

あああ、あそこが主の部屋の入り口と推理する知能がなくて良かったーーー
そんで、行儀良くドアから入る礼儀を持ってなくて
ほんとーーーーーーーーーに良かったあああああああああああああああ!

続く。

関連記事: ジャンル・やかた 30 09.11.26
      ジャンル・やかた 32 09.12.2

Comments

“ジャンル・やかた 31” への2件のフィードバック

  1. 奈々のアバター
    奈々

    ttp://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091125/210583/

    これ一大事だと思ぅんだょね?
    なのに、TVでは報道しなぃ。するのは必殺仕分け人とかなんだけど。。。
    てかさ、公務員給与カットをしない仕分けってなんなんだろぅ?

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    会員登録しないと続きが見れないんだけど
    読めるとこだけを解説すると

    石油の輸入の80%を頼っている
    日本にとって大事な取引先のサウジアラビアで
    何かの式典が開催されるんで
    日本も招待されたんだと。

    そんで、サウジの国王サイドは
    それなりの人物が
    (長くつきあいがあった福田元首相とか)
    来てくれる事を期待してたらしいんだけど
    鳩山首相が、小物をよこしたんで
    サウジ国王は激怒して、式典を欠席した。

    石油の輸入に今後支障が出るんじゃないか
    どうすんだよ?
    って話っぽい。

    “改革” に固執して
    自分ちの事情のみを相手に押し付けても
    それはよその国には関係ない、という証拠だろ、これ。

    中東とか、すっごい “格” を重んじる国が多い
    と聞いた事があるんだけど
    よりによって、そんな国相手に
    無礼な事をしでかしてたわけだ。

    日本に石油が入ってこないとか
    えれえ高い値段で売りつけられるとかになったら
    ほんと日本の経済、ボロボロになるぜ?

    世界平和を目指してるのに
    外交に弱くちゃ話にならんだろうに。
    日本だけじゃなく、よその国の感覚も軽んじるなぞ
    平和以前の問題だと、何故わからんのか?

    自分が正義だと盲信している輩は
    これだから大迷惑なんだよ!

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