「そんで、募集の話じゃが」
ジジイが続ける。
「昨今は活字離れで、新聞も読まれなくなったんじゃろうなあ。
年に一度の募集で誰も来ない事もある。
来るヤツもかなり減ったんじゃよ。
しょうがないんで、数人募集にきた時など
面接での合格者を複数出して、順番待ちをさせる事もある。
そんな人手不足の時に来たのが、あんたの兄ちゃんじゃ。」
「偶然、なんですかー?」
「偶然じゃろうなあ。」
何て疫病神な兄なんだ、と、アッシュがガックリと肩を落とす。
「で、異国に妹がいるのはわかったんじゃが
グレーは長く放浪してたんで、身寄りがないも同然、となってな。
なんせ、その時は他に誰も来てなかったんでな。」
斜め下から睨み上げるアッシュに、ジジイが慌てて首を振る。
「わしが決めたんじゃないぞ、長老会じゃぞ。」
「いやの、わしもそろそろ隠居したくなっちゃってのお。
グレーには期待してたんじゃよ。
風変わりだけど頭は切れるし、わしゃ飲み友達だったんじゃよ。」
「兄は何か有益な情報を握ってたんですかねー?」
「・・・多分、わしが主だというのは薄々気付いてたはずじゃ。」
「これ、何のヒントですかねー?」
アッシュは写真を腹から出した。
「あんた、それ今どっから出した?
うっ・・・、ホカホカしとるのお・・・。」
「いいからー! 裏には漢字で “歴史と伝統” と書いてありますー。」
「これ、どこで入手したんじゃ?」
「あんたらが見落としてたとこからですー。
もう、そういう事はいいからー!
これどういう意味だと思いますかー?」
「うーん・・・、ここらへんの城主は自室は2階にあったもんなんじゃ。
現代は最上階とかに住みたがるらしいが
城を持っている者は、いくら増築をしても伝統を守って
いるべき場所にいる、とでも言いたかったんかのお?
ま、わしは途中で最上階に移ったけど、結局は1階に戻ったんで
当たってると言えば当たってるんかいのお?
グレーはわしの移動記録など知らんはずじゃしの。」
「旧館を調べろ、って事を伝えたかったんですかねえー?」
「・・・さあな。 あの男も、わけわからんとこがあったからのお。」
まったく、今になっても意図が判明しないなど
どんだけわかりにくいヒントだよ?
兄、ちょっとバカじゃねえ?
この写真がなければ、エレベーターに気付いた時に上階に行ってただろうから
攻略できたのは、この写真のお陰といえばそうかも知れないけど
それにしても、運が良かった、以外の言葉が思いつかない。
「そんで、どういう経緯で私に相続話がー?」
「・・・うん・・・、それは驚きじゃったよ。」
ジジイは、しばらく遠くを見つめた。
「おーい、お迎えがきましたかー?」
「ちょっと回想してただけじゃ!」
「あー、ビックリしたー。
年寄りなんだから、突然黙り込んだり動かなくなったりしたら
間違われて埋葬されかねませんよー、気をつけてくださいねー。」
「あんたは・・・・・。」
「日本は何と火葬なんですよー。
こっちは気が付いたら地中だった、だけど
日本じゃ気が付いたらあたりが火の海だった、ですからねー。
まあ、どっちもヤですけどねー。」
ジジイは怒りを抑えつつ、話を戻した。
「グレーは遺言書を作っておったんじゃ。
それも法にのっとった正式なものをな。
どういうつもりで、あんたに相続させたかったんかはわからんが。」
「この館の中でそういう事が出来るんですかー?」
「普通は出来ん。
じゃが、グレーはリリーと付き合っておったんじゃ。」
「ええええええええええええええーーー?」
リリー? あの香水女?
「そ、それは、ここに来てからですかー?」
「うむ。」
「以前からの知り合いとかじゃなくてー?」
「うむ。」
「ここにいる数ヶ月の間でー?」
「うむ。」
兄ちゃん、何て手の早い・・・。
呆然とするアッシュに、ジジイが同情の眼差しを向けた。
続く。
関連記事: ジャンル・やかた 31 09.11.30
ジャンル・やかた 33 09.12.4
コメントを残す