ジジイが壇上から降りてくる。
お疲れさん、の声と拍手が会場に響く。
「では新しい館の管理者、アッシュ様。」
名が呼ばれ、ゆっくりと壇上に上るアッシュ。
うって変わって会場は静まり返った。
アッシュは人々の顔を見渡し、口を開いた。
「あなたたちは何のために産まれてきたんですかー?
あなたたちは何のために生きているんですかー?」
ハウリングが起こるほどの大声に、会場が揺れ全員の目が見開いた。
構わずアッシュは拳を振りつつ、がなり続ける。
「幸せって何ですかー?
食って飲んで寝る事ですかー?」
ジジイとリリーは、その姿を見ながら
ここまで来るまでの経緯を思い返していた。
長老会に出席した時も、アッシュの考えに誰もが驚いた。
「人心を制するには、恐怖が一番なんですー。
恐怖とは畏怖、つまり宗教ですー。
それは、あの館の暗い歴史を悔いて罪を償う
という風にも見られて、一石二鳥ですー。
あの館を、贖罪の場へと生まれ変わらせるんですー。」
「宗教も力を持ちすぎると厄介ですから、既存の宗教ではなく
道徳という名の “信仰心” だけを養わせるんですー。」
「館の住人たちが、道徳を、感謝の心を持てたら
相続バトルをする必要もなくなりますー。」
アッシュから立て続けに出てくる言葉の数々に、圧倒されつつも
長老会メンバーが疑問を投げかける。
「だが、きみが出来なかったら、どうするんだね?」
「私で全然ダメだったら、別の救世主を登場させれば良いだけですー。
もし私が良い線いってるのに、途中でコケた場合は
都合の良い逸話をでっち上げて
私の名前だけを残して、シンボルに仕立て上げれば良いんですよー。」
長老会の議論が、思いのほか短かったのは
誰もがあの館の姿にウンザリしていたせいだが
アッシュの不思議な押しの強さも影響している、とリリーは感じていた。
東洋人独特の無表情さで、物静かな印象を与え
しかも喋り方もゆっくりで間延びをしているのに
話す内容は、歯に衣着せぬ表現でダイレクトに伝わる。
このストレートな物言いが、吉と出るか凶と出るか。
アッシュの存在が、この計画の鍵になる事を全員が危惧していた。
誰よりも、発案者であるアッシュ自身もである。
とにかく、勢いで突っ走るしかない。
大声は出したもん勝ちなんだよ!!!
アッシュは、大きく腕を振り回しながら叫び続けた。
「それで良いのか、自分自身に問うのですー!!!」
続く。
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