「・・・さま、主様」
呼び声にふと目覚めると、枕はヨダレだらけだった。
「よくねてらっしゃっただよ、ほんとおつかれなんだね。」
アリッサがアッシュの顔のヨダレを拭く。
「ああ・・・ごめん、寝てた・・・?」
寝ぼけ眼でアッシュがヨタヨタと体を起こす。
「ねてたなんてものじゃないだよ、はぎしりしてらっしゃっただよ。
はぎしりはほねにもんのすげえわるいから、やめたほうがいいだよ。
といっても、じぶんじゃどうにもできんしなあ
ストレスがげんいんなんだ。」
「ストレスねえ・・・。」
アッシュが溜め息を付く。
「わしになんかできることがあったら、いつでもいってくだせえ。」
アリッサの言葉に、不覚にもジーンとさせられたアッシュ。
「アリッサには、こうやってマッサージをしてもらって
いつも助かってるんですよー。
本当にありがとうー。
お陰でずいぶんとラクに体が動くようになりましたー。」
「そ、そんな、わしなんかにおれいなんかもったいないだよ・・・。」
アリッサがドギマギしながら言うのを見て
アッシュは、もうちょっと主らしく振舞わねば、と反省させられた。
この人たちは、本来の私ではなく “主様” を私に要求しているのだから
その期待に応えるのが、自分の役目なのだ。
リリーは聞く耳を持たず、クールに無視をしてくれるし
ジジイはここぞとばかりに罵倒をしてくれるのから
このふたりだけには、遠慮なくグチグチ言えるのだが
住人たちに、自分の心情を知られるのはマズい。
“主様” に私心があってはならないのだ。
“主様” の中身が人間なのは、明確な事ではあるだが
住人たちには、そんな事情は必要ないどころか、邪魔である。
最近、忙しさにかまけて、どんどん地が出てたからなあ
こりゃ、威厳もへったくれもねえわ
アッシュは自分のだらしなさに渇を入れるように、勢いよく立ち上がった。
「よし! マッサージで元気をもらったから、頑張りますよー!」
アリッサが一日の後片付けをしていると、デイジーが入ってきた。
ふたりでボソボソと密談をするその様子は
明らかに何かが進行している事をうかがわせていたが
何事もなく、月日は流れていった。
これからもこのままが続くかのように。
続く。
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