ジャンル・やかた 44

周囲の人々に助けられて、何事もなく日々が過ぎ
一時期の超多忙ぶりも落ち着いたある日
お茶を運んできたデイジーが、神妙な面持ちで訊いてきた。
 
「あの・・・、ご相談があるんですけど・・・
 お話できる時間は、ありますでしょうか?」
 
そういや、ここ数日ソワソワしたり、沈み込んでいたり
何かと彼女の様子がおかしかった。
「ええ、もちろんー。
 さ、そこに座ってー。
 あなたも一緒にお茶を飲みましょうー。」
 
アッシュがポットを取ると、デイジーが慌てた。
「いえ、そんな、とんでもない。」
「いいから、いいからー。」
 
アッシュがお茶をカップに注ごうとしたら
ポットの蓋が外れ落ちて、カップを直撃して割ってしまった。
「だからーーーっ!」
 
デイジーの叫びを聞き、あ、畏れ多いって事じゃなく、“だから” なのね
と、アッシュはご主人様ぶった自分を恥じた。
 
デイジーが “きちん” と淹れてくれたお茶を飲みながら
アッシュは混乱していた。
デイジーはソファーには座らず
自分の真横に両膝を付いて、話そうとしているのである。
尊敬されてんだか、遊ばれてんだか、一体どっちなんだろう?
 
 
そんなどうでもいい混乱は、デイジーの話でふっ飛んだ。
「あたし、少しでも主様のお役に立ちたくて、ずっと調べていたんです。」
こういう事を言うヤツの行動が大抵ロクでもないのは、歴史が証明している。
ドキドキしながら続きを聞く。
 
「反乱者グループの事を。」
その単語に、アッシュはティーカップを落としそうなぐらいに驚いたが
その動揺を何とか最小限に押しとどめて、素早くすり替えた。
館内を把握し管理しているはずの “主様” に
知らない事があってはならないからだ。
 
「調べるって、あなた、そんな危険な事をー!」
いかにもデイジー本人の事を心配するそぶりをする。
 
「でも、主様、お命を狙われたじゃないですか!
 それだけでも心配なのに、あの事件以来、更にお忙しくなられて
 食欲も落ちてしまわれて、あたし心配なんです!
 あんなヤツらがこの館にいるから・・・。」
 
 
デイジーの目に浮かんだ激しい怒りの色を見て
アッシュはそっちの方が不安になった。
ヤバい、これは狂信者というやつか?
 
「それでアリッサに頼んで、情報を集めていたんです。
 リハビリ部には大勢の人がやってきますから。」
ああ・・・、アリッサもかい・・・、アッシュは目まいがした。
 
「それで、あたし、ディモルと付き合い始めたんです。」
へっ? アッシュはいきなりの展開に付いていけず
「そ、それはおめでとう・・・ なのー?」
と、妙な言い方で返事をしてしまった。
 
「めでたくなんかないです!
 あたしには、一生マティスだけです。
 あの人を忘れる事など、出来るわけがありません。
 だけどこの館を守ろうとする主様のためなら
 きっとマティスも許してくれるでしょう。
 あたしは恥じてはいません。」
 
 
デイジーは、相続戦で死んだ男性、マティスと結婚したかったけど
ふたりともこの館を出て生きていく自信がなかったので
一生ここでふたりで暮らすつもりだった
と、以前アッシュに語った事があった。
 
それだけに、マティスの死で、一層この館への執着が強くなり
その想いがすべて、“主様” に向けられているんだな
と、アッシュはその話を聞いて感じた。
だからデイジーの前では、なるべく彼女の “主様” 像を壊さないように
努めたつもりである。(それでもこの体たらくなんだが)
 
 
「デイジー、まさか・・・、えーと、その何とかとかいう人はー・・・。」
「ディモルは、反乱グループのひとりです。」
何てこったい・・・、アッシュは脳がグラグラした。
 
「主様、この話を今日したのは、時間がないからなんです!
 本当なら主様にはご迷惑をお掛けしたくなかったんですけど
 もうあたし、どうしたら良いかわからなくて・・・。
 主様の助けになるつもりが、逆に頼る事になるなんて・・・」
 
デイジーの狼狽を見て、ただ事じゃないと悟ったアッシュは
「落ち着いてー。
 とにかく最初からすべて話してくださいー。
 大丈夫、私が絶対にあなたを守りますからー。
 そのために私はここにいるんですよー。」
と、優しくかつ頼もしく微笑んだが、デイジーの話が進むにつれて
想像を超えたあまりの衝撃に、そのショックを表にこそ出さなかったが
心の中では、大声で叫んでいた。
 
パス1ー! パス2ー! パス3ー!
 
 
続く。
 
 
関連記事: ジャンル・やかた 43 10.1.12
      ジャンル・やかた 45 10.1.18

Comments

“ジャンル・やかた 44” への2件のフィードバック

  1. 奈々のアバター
    奈々

    ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100115-00000517-san-pol

    開きなぉったポッポちゃん
    だけど、選挙後に発覚した金銭問題もぁるょね?

    そんなに自信がぁるなら、解散総選挙しなょ

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    敗者の遠吠えでしかないけど
    そりゃあ選んだ国民が悪いだろ。

    にしても、選ばれた選ばれた、って
    伝家の宝刀のように繰り返して
    選んでない側からしたら
    もんのすごーーーく腹立たしい。

    “国民の皆さん” が
    早く見切りをつけてくれるのを待ってるが
    まだ支持率50%台? それ本当?

    ・・・ああ、待つのは長い・・・。

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