「いいですかー? たとえニセの情報でも、それを渡したら
あなたが役に立つ、と判断されてしまい
今後の負担が大きくなってしまいますー。
とにかく “使えない女” と印象付けるためにも
オドオドしながら、ビイビイ泣くんですよー?」
アッシュがデイジーの両頬を両手で包みながら
顔を近づけて何度も念押しをした通りに、デイジーは振舞った。
「あたし・・・、何とかやってみようとしたんですけど・・・
でも主はいつもソファーに座って、こっちを睨んでいて・・・」
すみません、と顔を覆った手を震わせながら泣くデイジーの肩に
ディモルが手を回しながら言った。
「もういいだろ!
お茶を運ぶだけの仕事に、そんなチャンスなど来るわけねえよ。
こいつも頑張ってるんだ、時間が掛かるのはしょうがねえぜ。」
デイジーはディモルの胸に顔を埋めた。
「ごめん・・・、あたし、あんたの役に立ちたかったんだけど・・・。」
デイジーは、恋に狂うバカな女を完璧に演じていた。
ふたりを見て、部屋がザワついた。
「しょうがねえんじゃねえのか?」
「ああ、急な話だしな。」
「でも1ヶ月あったんだぜ?」
「だけど、ただのお茶酌みに主の机が漁れるかよ?」
「あの狡猾な主だしな・・・。
見つかればどんな仕打ちが待ってるかと思うと恐ろしいぜ。」
「しょせん女子供には無理な話だったんだよ。」
空涙を流しながらも、デイジーは腹が煮えくり返った。
あんたらに主様の何がわかるってのよ!
ディモルが申し訳なささのためだと、都合良く勘違いしたデイジーの震えは
半分は怒りによるものだった。
「見つかったらそれこそ、その女の価値はないぜ。」
「何だと!」
ディモルが恋人を侮辱されたと感じて、前に出ようとした瞬間
「もういい!」
皆の背後から大声が響いた。
立ち上がったのはバスカム。
反乱グループのリーダー的存在である。
アッシュ曰く、“若くてイケメンで人格者で頭が切れる”
という評価のヤツだ。
監視側も以前から目を付けていた内のひとりだったが
集会は不定期に行われる上に、各人の部屋の持ち回りになっていたので
彼らが徒党を組んでいる、とまでは見抜けなかったのだ。
バスカムの部屋には、パソコンや通信機器が揃っていて
反乱グループの拠点になっていた。
いまや見過ごす事が出来ないほどに
この反乱グループの形が出来上がってきたのには
館の誰もが、何の疑問も感じていなかった数件のある出来事が関係していた。
続く。
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