デイジーは、ディモルと親しくなるのに充分に時間を掛けるつもりだった。
軽い女じゃない、と思わせないと。
そう企むデイジーは、本当に一途な女だった。
「そろそろ良いじゃねえかよ
あんたはまだ若いんだし、ヤツもあの世で納得してるさ。」
ディモルが誘う言葉の端々に、サカリの付いた男特有の無神経さがあり
マティスに対する冒涜を感じて、頭に血が上る事が度々あったが
その怒りを上手く変換して、ディモルを操った。
「あたしゃ、マティスを殺したあの主が許せないんだよ!
こんな気持ちじゃ、あんたにも申し訳ないんだよ。」
「俺も主を憎んでいる。」
そうディモルが言い出すまでには、時間は掛からなかった。
志を同じくする仲間がいるらしき事も、すぐに告白した。
チャラい男だわね
デイジーはより一層ディモルを軽蔑し、亡きマティスへの愛を深めた。
この事により、デイジーは何でも出来る決心が付いた。
心がなければ、それはただの行為である。
この悟りは、セックスだけではなく殺人にまで適用される。
奇しくも、産まれ出す行為と死の行為、相反するふたつの事柄に、である。
アリッサがデイジーに耳打ちをした後に事は起こる。
医療室で、ひとりの患者が死んだ。
重病や複雑な治療が必要な者は、長老会管轄の街の病院に送られるが
それでも館の医療室は、診療所クラスの設備が整っていた。
死んだ患者は、深酒が過ぎて少し肝臓を患っただけで
入院はしてても、命に関わる事態ではなかった。
しかし館の医師は、深く追求もせず事務部に報告し
事務部も何の疑問も抱かずに、長老会へと上げた。
その流れの途中に、アッシュもリリーも関わっていた。
この館の住人の命が軽かったわけではなく
病院で死ねば病死、その一般的な感覚が全員の目を曇らせたのである。
デイジーはアッシュに助けを求めた時に
この一件は自分が点滴にとある物を少量混ぜた、と告白したが
解剖もされなかった遺体は、死因の特定もされず
報告書には “心不全” と書かれていただけであった。
デイジーの告白を聞いた時に、アッシュは自分の父親の事を思い出した。
アッシュの父親も、ある朝突然息絶えていて
死因が心不全、と言われたのである。
そんな物を摂取するだけで、普通っぽく死ねるなんて・・・。
アッシュはデイジーの話を聞いて驚いた。
それは子供に舐めないように注意をするだけの
どこにでもある生活に密着した成分であった。
葬式の時の墓地の前で、再び握り拳を振るわせるディモルの隣で
そっとその握った手に自分の手を重ねつつ、デイジーはほくそ笑んだ。
あんたの言動を見てれば、誰が仲間なのかすぐわかるのよ。
高笑いをしたくなるような気持ちを抑え
デイジーはディモルの顔を見つめて、背中を優しくさすった。
「親しい人だったの?」
「ああ・・・、仲間だった・・・。」
ディモルはデイジーを抱きしめた。
安酒の匂いに、デイジーは吐き気を覚えた。
続く。
関連記事: ジャンル・やかた 47 10.1.22
ジャンル・やかた 49 10.1.28
ジャンル・やかた 1 09.6.15
コメントを残す