ジャンル・やかた 54

多分ローズは私を守るためなら、どんな事でもするだろう
アッシュには、その確信があった。
 
だけど今回の事は、何故か言い出せない。
それは何かあったら、ローズは必ず助けてくれるだろうから
わざわざ言う必要もない、ってのもあるんだけど・・・
 
自分のちゅうちょの理由を、考え込むアッシュだったが
ジジイとリリーが無言でいる事に気付き
思考を打ち切って、慌てて言いつくろった。
 
「あー、えーと、ローズには言う必要はないですー。
 その場その場で的確に動いてくれますんでー。
 問題は、デイジーの今後だと思いますー。」
 
 
ジジイが首を捻った。
「デイジーか・・・。
 死んだ恋人のために、あそこまでするもんかいのお?」
アッシュが即答した。
「私にはよくわかりませんー。」
「・・・こっちの想像をこれっぽっちも裏切らない答じゃのお。」
 
「でも、悲しみを怒りに変換してるんだと思いますー。
 それは生きていくのには、良い方法だと思いますよー。
 怒りは生のエネルギーですからねー。
 私なんか、怒りを持てなくて苦労しますよー。」
 
ジジイは心底驚愕した。
「あんだけわしに怒鳴るくせにか?」
「“怒る” のと “怒り” は、持続性が違うでしょーがー。」
ええっ? と、納得しないジジイを置き去りに、アッシュは続けた。
 
「長く続く深い悲しみを、怒りに変換させるなんて難しいもんですよー。
 悲しみは受動的で己の内へ内へと向かうんですー。
 怒りは能動的で外へと向かうー。
 自分以外を憎むから、自己嫌悪感がないんですよー。
 デイジーは、生きるのにとても前向きな女性だと思いますねー。」
「ほほお、なるほど。」
 
ジジイが感心すると、アッシュが案の定、図に乗った。
「これはネットで調べた、“ラクチン洗脳術” とかいうやつで
 人の感情というものは・・・」
「待て待て待て、そんな汚れた話は聞きとおない!」
ジジイが慌てて止めたので、アッシュはムッとした。
「私が腹黒いお陰で、あんたが安定した地位にいられるってのにー。」
 
「とにかくデイジーの身の振り方じゃ!」
ジジイがむりやり話を元に戻した。
「んー、表面上は “今まで通り” しかないんじゃないでしょうかー?
 て言うか、こっちがさっさと動きましょうよー。
 反乱グループを壊滅させたら、それで済むんじゃないですかー?」
「それもそうじゃな。」
 
 
ふたりの意見がまとまったところで、アッシュが事務的に言った。
「じゃ、私はバ・・・こいつと直接話をする事にしますんで
 あんたは、こいつとこいつとこいつを殺りに行ってくださいー。」
 
「待て待て待てーーーーーーーーーーーっっっ!
 わしかい! わしが殺るんかい!」
 
「うわあー、関西芸人でも中々できない瞬時の突っ込み、すげえー。
 冗談ですよー。
 どいつが積極的にいらん事をするか、調べてからですよー。」
アッシュが大笑いしながら言うと、今度はジジイがムッとした。
 
「言っとくが、わしは引退したんじゃから狩りには出んぞ!」
「わかってますってー。
 でも、ジジイの勇姿、見てみたかったなあー。 あははー」
「まったく聞き流していると、何をさせられるかわからんな!」
 
 
その後、リストを見ながら3人で議論が続いた。
 
その間ずっと、アッシュもジジイも
お茶を飲み、駄菓子をむさぼり食っていたので
その日の夕食が食べられなかったのは
イイ大人が、どこのしつけの悪いガキだよ? という話である。
 
 
続く。
 
 
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