去年、実家に帰省した時の事。
ダイニングテーブルに見苦しく山積みになっていたチラシ類が
地すべりを起こし、ドサドサドサドサと崩れていく真っ只中
兄がそれを、ただボーッと眺めていた。
一部始終をテーブルの向かいに座って目撃していて
兄のその呆けっぷりを見て、こいつ何か悩みでもあるんかいな
と思ったんだが、なだれが終わると兄がグルリとこっちを向いて言った。
「俺はもう、ゆっくり動く事にしたんだ!」
この前衛的とも思える、突拍子もない宣言に
一体どうしたんだ? 何があったんだ? と、若人は驚くであろう。
しかし私には、兄のこのひとことですべてが理解できたので
「そうだね」 で済ませて、チラシ拾いを手伝う事もせず ← !!!
苦い高級緑茶を嫌々すすっていた。
いや、高級っちゅうのは知らんよ
兄が茶を淹れながら、これはどこどこの何とか地方でとれた
こういう素性のどうした茶なんだ、と能書きをたれていたんで
ああ、要するに高級なんだな、この兄の事だし、と思ったんだ。
兄の淹れる茶、とにかく苦いんだよ。
もんのすげえ手順をかけて、丁寧に淹れるんだけど
私には良さがさっぱりわからないんだよ。
どうせ安物食いのジャンク味覚さ。
と、茶に対しての恨みはどうでも良い。
兄の何が私にわかったのか、というと
年寄りはキビキビ動いてはいけない!!!
この鉄則を、ここ数年私も感じているのだ。
元々段取り重視の私は、とても素早く動く。
速度戦を掲げていた某国の将軍様に気に入られるほどに。
何度も行き来したり、これをやってからあれを とか
モタモタするのがイラつくので
一度の移動で揃えるだけ揃え、持てるだけ持ち
これをしつつもあれをする、と千手観音のような事をやっとった。
そりゃもう、使える部分は全部使っていた。
右手も左手も足もケツもコシも肩も。
端から見てると、行儀の悪さは否めないので
我が親の顔に泥を塗っちゃいけない、と人前では封印しているが
おめえ、次はこれもしなきゃならないんだろ?
だったら今、ついでにそれも持って来ればいいじゃないか
とか、他人の段取りの悪さに内心ピキピキさせられたもんだ。
しかしそこは、年を重ねて腹も程よく黒くなってきたんで
「あ、そこのそれ、ついでに持ってきてくださいー。」
と、自分の利益のために人をこき使うようになり
マイ気分的には安定してきた。
私のために動く事に不満があるなら
おめえのために、おめえの段取り力を鍛えてやっても良いんだぞ?
と、自分を正当化しつつ。
さて、私がいかに有能かを熱く語ったところで本題に入る。
ひとつの記事の中に、どれだけ自画自賛を混ぜるかを命題にしとるので
本題が後回しになるのは、いた仕方のない事である。
文句があるなら、全文私ブラボーでいっても良いんだぞ、ああー?
この私の千手が、年老いてきたら自傷行為になってきたのである。
ガーッと通り過ぎながら、後ろ手に物を取るとグキッ
洗い物をしながら、足でガスコンロを調節するとメキッ
肩で邪魔物を支えながら作業をするとバキッ
ヘタすると、廊下を歩きながら電灯のスイッチを押しただけでビキッ。
ここ数年、特に冬場の寒い時期は、体のどっかが筋違いを起こしていた。
気を付けてはいるんだが、どうも基本せっかちな性格だったらしく
ついつい以前のクセが出てしまうんだ。
んで、必ずグキメキバキビキだ・・・。
きっと兄も同じ経験をして、それに気付いたに違いない。
あいつは私に輪をかけてマルチタスクなのだ。
自分の短気な性格は、ボケとともに緩まると信じつつも
出来るだけゆっくり動くように心掛けている。
ゆっくり振り向く、ゆっくり立つ、ゆっくり座る
そうやってたら、筋肉がちょびっと鍛えられている気がするし
何より意外だったのが、お上品に見られる事である。
えっ? 元々上品なのに何を今更? と思わんでもないが
褒められるので、思う存分気を良くしている。
上品な老婦人への道を着々と歩んでいるようだ。
それプラス、去年の夏頃に始めたストレッチ
冬は寒いので、1秒たりともしたくないが
とりあえず朝目覚めたら、布団の中で
両手を頭の上に伸ばして、足先も伸ばし、全身で伸びをする。
次に両手そのままで、かかとを曲げてアキレス腱を伸ばすように
もう一度、ウーーーーーーーーン と全身を伸ばす。
その後、布団の中で正座をして、顔はうつむいたまま
両手を前方に出して、ウーーーーーン と土下座をする。
(土下座は得意なんだ。 よくするハメになるし。)
そんで、その格好のまま、布団の中にしばらくいる。
寒いんで布団から出たくないだけなんだが
ほれ、何せ急に動くとマズいだろ?
こんぐらいでも気休めにはなるかな、と軽んじていたら
これをやって起きると、例のグキメキバキビキをしないんだよ!
今年はまだやっとらんのだ。
もんのすごーく上品になったか、ストレッチが効いてるかのどっちかだな。
ストレッチ、ほんとバカに出来んぞ!
若者にはまだ関係のない情報だが、覚えておいてくれ。
年を取るとな、普段の生活態度が己への凶器になるんだよ。
途中でそれに気付いても、いきなり運動を始めたりしちゃダメだ。
打ち身捻挫筋違い神経痛、果ては腱を切ったりするからな。
まずは緩いストレッチなどで、徐々にリハビリしつつ
自分の反射神経と別れ話を始めるんだよ。
私のこの言葉が現実にならないよう
普段から適度な運動をしとくのが、一番のお勧めなんだが
自分がしたくもねえ事を勧められんしな。
んじゃ、ちょっくら出掛けるわ。 へい、タクシー!
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