「にしても、彼女の様子はどうしたんだね?」
「いつもは多少なりとも、無邪気さがありましたよね?
まあ、どっちもヘンだという事には変わりないですけど。」
「言葉に険があるし、まるで別人のように感じますよ。」
メンバーたちの言葉に、ジジイは呆れた。
「あんたたち、録画画像を観とらんかったんかね?」
画像? 何のですか? と、口々に訊くメンバー。
「やれやれ、じゃあ、アッシュの言動も理解できんわな。」
ジジイは溜め息をつくと、説明を始めた。
「報告書には事務的に書かれていたが
ローズはアッシュのあの館での、唯一の支えじゃったんじゃ。
その繋がりの深さを知らないと、わからんかも知れんじゃろうが
ローズは大切なアッシュを、自らの死を持って守ろうとした。
録画画像にちゃんと残っておる。
『命を掛けてあんたを守る』 という最期の言葉がな。
だからアッシュはローズに汚名を着せ、館の崩壊を防いだんじゃ。
この画像は、さすがにアッシュには観せられんので
わしが事前に届けたんじゃが、会議前に確認していなかったんか?」
「そんな画像があったんですか・・・。」
「申し訳ない、我々の方のチェックミスだな。」
メンバーたちには初耳のようだった。
「あんたらも、気合い不足じゃの。
このやり取りを見ていたら、アッシュとローズのふたりが
いかに命を掛けて、館を守ろうとしているかがわかるぞ。
じゃが、残されたアッシュは
大切なローズの死に、今にも気が狂いそうじゃろうな。
あの画像を観れば、その気持ちがあんたらにもきっとわかるじゃろう。
アッシュの前では、もうこの話は禁物じゃぞ。」
重い背景のほんの一部を聞かされただけで
気の毒そうな顔をするメンバーに、ジジイが釘を刺す。
「今までアッシュの寝室は、少しでも安らげるようにと
ローズがいつもバラの花で埋め尽くしていたんじゃよ。
ベッドカバーからカーテンから、毎日ローズが整えとったんじゃ。
それを思い出すのも辛いゆえの、大幅改築なんじゃろう。
主の寝室は、警備上あそこじゃなきゃ困るんじゃが
アッシュは今、書斎で寝泊りしておるようじゃぞ。」
「それで、彼女は大丈夫なんですか?
ショックで人格が変わるという話もありますし・・・。」
メンバーの心配に、ジジイはサラッと答えた。
「これを乗り越えてこそ、主なんじゃよ。
ダメなら、しょせん主の器じゃなかったという事じゃな。
その見極めはわしがする。
無理ならば切り捨てるまでじゃ。」
アッシュびいきのはずのジジイの非情な言葉に、驚いた一同を見て
ジジイがいかにも意外そうな素振りをする。
「街の名士が揃って何を驚いとる?
あんたらだって、こんぐらいやって権力を得とるだろうて。
シビアなもんじゃろ、政財界も。」
それを言われるとそうなんだが
館は街の重荷であると同時に、元々は街の良心でもあったのだ。
自分たちがやっているのはボランティアだと思いたい気持ちがあり
だからこそ改革は、断固として進めなければならない。
出来れば、あの忌まわしい相続を二度とせずに、だ。
「では、寝室の改築ぐらい認めてあげましょう。
今の彼女には、安らぐ場所が確かに必要ですからね。」
ひとりのメンバーの言葉に、他のメンバーたちがうなずいた。
ジジイはそれを見て、言う。
「そうか、じゃあ、そこはわしに任せんしゃい。」
呼び戻されて、長老会から了承を得たアッシュは
「ありがとうございますー。
今後も全力で頑張りますので、ご指導をよろしくお願いしますー。」
と、まるで心のこもっていない棒読みお礼を無表情でした。
そこへジジイの横やりが入る。
「ただし、認めるのは改築費と常識的な家具のみじゃ。
棚、鏡台、KOTATSU、FUTON、TATAMI
コンポとパソコン、DVD機器の類も許そう。
ただしTVは1台までじゃ。
他の物は、全部あんたの自腹で何とかせえ。」
それを聞いたアッシュは、初めて表情を崩し青ざめた。
「ええーーーーーーっ?
液晶、すんげえ高いんですよー?
ネオジオソフト、チョー美品レア物落札しちゃったんすよー?
美容機器だって、ゲルマニウムローラーとか高価ですよー?
超音波美顔器なんか30万超えですよー?
美しさを保つのも、崇拝対象者の義務じゃないですかー?」
「心配すな。
ない “美” は保つ必要もない。」
ジジイが超!セクハラ発言をサラリとし
紳士たるメンバーたちを慌てさせ
リリーは吹き出しそうになったのを根性で耐え
アッシュはヘナヘナと床に両手両膝を付いた。
アッシュとリリーが帰っていった後、ジジイは言った。
「さて、どう金の工面をするやら。
あやつに部屋にこもられたらマズいんじゃ。
大きな悲劇を味わったんだから
それをぜひとも館の管理に活かしてもらわにゃのお。」
今日のアッシュには、有無を言わせない迫力があったが
ふぉっふぉっふぉっ、と高笑いをするジジイを見ると
この人の方が真の鬼だ、とメンバーはゾッとした。
続く。
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