ジャンル・やかた 68

ジジイに呼ばれた医者に鎮静剤を打たれて、アッシュは再び眠りに落ちた。
「しばらくは、様子次第で鎮静剤を頼む。」
そう医者に告げて、部屋を退出したジジイにデイジーが食って掛かった。
「主様に何をしたんですか!!!!!」
 
ジジイは、丁度良かった、と思いつつデイジーに命じた。
「この部屋は、医師と看護士のみの待機にする。
 あんたは用事がある時以外はこの部屋に来るでない。」
 
何故ですか! と、激怒するデイジーにジジイは怒鳴った。
「主代行の命令に質問をするとは何事じゃ!
 聞けぬなら、あんたを世話係から外すぞ!!!」
ジジイの剣幕に、デイジーは黙りこくった。
 
構わずジジイは背を向けて去った。
主としてしか見ないヤツは、今のアッシュには酷じゃからの。
 
 
目を覚ましては泣きじゃくるアッシュに、再び鎮静剤が投与される。
もう数週間もアッシュはベッドから出ていなかった。
鎮静剤のせいで、常にもうろうとした状態になっていた。
 
それでも朝になると、看護士がカーテンを開ける。
ある日、ふとつぶやいた。
「あら、今日は良い天気になりそうね。」
 
その言葉に、アッシュが目だけを窓に動かした。
ローズが必ず天気の話をしていたからだ。
 
今日は雷がきそうだね、重そうな雲がやってきてるよ
乾いた空気だね、ハーブに水を多めにやっとかないとね
今日は暑くなりそうだね、帽子を持っていきな
そろそろ寒くなりそうだね、空があんなに高くなっちゃったよ
今日は良い天気だね、鳥の声がよく響いているよ
 
 
以前はローズの事を思い出すのさえ封印していた。
だが今は、毎日毎分毎秒ローズの事しか考えられない。
ローズが恋しい ローズに会いたい
そう思ってしまう自分を止められないでいた。
 
しかしアッシュが今死のうと、ローズには決して会えないのだ。
それどころか自分が死を選ぶ事は、ローズを2度裏切る事になる。
 
1度目は、ローズに隠れて殺人を繰り返した事。
ローズに罪をかぶせたのは、裏切りではない。
あの時はローズの自殺に怒り狂って
仕返しのつもりで、その死にすべてをかぶせたのだが
ローズはそれを望んでいた、と今のアッシュにははっきりとわかっていた。
 
 
「あんたを守る」
この言葉は、アッシュを疑いから逃そうとするだけではなく
アッシュが死なないようにするためでもあった。
 
ローズの自殺によって、アッシュは現世に縛られる事になったのだ。
アッシュはそう考えると確信しての事である。
ローズは確実にアッシュを守った。
命だけは。
 
ローズの誤算は、自分のカルテが診療所に残されており
それをアッシュに見られるなど、予想もしていなかった事だった。
 
 
アッシュが微かに喋った。
「・・・窓・・・・・が・・・遠・・い・・・?」
看護士がそのか細い言葉にハッとし、アッシュの方を振り返る。
 
アッシュは、目を開けたり閉じたりしていた。
「何をなさっているんですか?」
看護士がアッシュの横にひざまずいて訊ねる。
 
「・・・右・・目が・・・見・・え・・ない・・・・・。」
「えっ?」
看護士の聞き返しに、アッシュは答えずに口を閉じた。
 
 
医師が看護士の連絡で大慌てでやってきて、アッシュの目を検査した。
右目が確かに見えていないらしい。
アッシュは再び街の病院に搬送された。
 
 
続く。
 
 
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Comments

“ジャンル・やかた 68” への8件のフィードバック

  1. けるのアバター
    ける

    あっしゅ…。
    鎮静剤やらストレスやらで、視神経が参ってしまった…?
    痛々しい…。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    えっ、ける、ローズファンじゃなかったんか?

  3. けるのアバター
    ける

    ローズが好きだったんで、ローズ恋しいあっしゅに感情移入しちゃうのかも…。
    一人取り残されて寂しいだろうなぁって。

    って、そういう話ではなかったり??
    ローズのくだりで、何か右目についてのヒントありましたっけ?

  4. あしゅのアバター
    あしゅ

    ああ、なるほど、それ、説得力がある説明だー。
    アッシュの孤独は想像できんよな・・・。

    行き当たりばったりの割に
    設定が増えていって
    ここらへんのフラグは続編でしか出ないんだよー。

    続編も長くなりそうで
    もう、どうしようかと悩み中だ。
    他の話を書きたいんだけど
    やかたの続編も終わらせてから、が筋かな?

    いまいち小説のルールがわからんよー。

  5. けるのアバター
    ける

    やかた本編が終わったら、
    とりあえず他の話を書いてみるというのは?

    のりにのっちゃえばそっちでいけばいいし、
    そうでもなければ、小さくまとめて続・やかたに移る。

    くらいの気楽さでいいんではないかなぁ。

    プロの小説家は、リアルタイムで公表するわけでもなかろうし
    発表してみて考える…ってのはルール違反かもだけど、
    ここではありかと。

    それに、
    続編って、ちょっと間をおいた方がありがたみが出る気がする
    …のは、私だけっすかね?笑

  6. あしゅのアバター
    あしゅ

    なるほどーーーーーー
    “ありがたみ” それ、大事そうだ!

    (間が空くとすぐ忘れるのは私ぐらい、か・・・。)

    短くまとめる・・・?
    そっか、小説って長編ばかりじゃないんだー。
    本って、“1冊” が単位だと思い込んでいたよ。

    何か構えすぎてたみたいだ。
    助言ほんと助かったよ、ありがとうーーー!!!

  7. けるのアバター
    ける

    うおおおおおおおお

    人に感謝されるって、嬉しい!!(TT)

  8. あしゅのアバター
    あしゅ

    いや、ほんと、小説のルールみたいなんを
    よく知らないんで困ってたんだよ。
    どうすりゃ良いんかな、と。

    その気持ち、ちょっとわかる!

    私の場合、普段は
    「ありがとう」 と 「すみません」
    ばかり言っている人生でさ。

    だからたまに相手から
    「ありがとう」 と言われると
    おおっ! と、動揺させられる。

    で、何か気恥ずかしくて嬉しいもんで
    ぐへへ、とかふざけて、台無しにするわけだ。

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