長老会会議に、アッシュが出席した。
「ブッ倒れて寝込んで、申し訳ございませんでしたー。
ちょっとヒス起こしちゃいましたー。
皆様方には、度々のお見舞い、心よりお礼を申し上げますー。
どうもありがとうございますー。」
敬礼をするアッシュに、若い太めのメンバーが嬉しそうに言った。
「おおーう、ニッポンのオジギでーすね?」
「いえ、これはサイケイレイと言いますー。
最高の敬愛を込めてするオジギですー。」
「おおおおおー、ニッポン、美しい文化でーすねえ。」
「・・・? 何かやたらニッポンを褒め上げてるようですがー?」
いぶかしがるアッシュに、ジジイが横から口を挟んだ。
「ああ、こいつはあんたの見舞いに来た時の視察で
あんたのゲームにハマってな。
ヒマさえあれば、あんたの部屋に入り浸ってたんじゃよ。」
「ちょ! 私のゲームを勝手にー? セーブデータはー?」
勢いで立ち上がったアッシュは、リアル目まいを起こした。
「ああっ、無理しないでくださーい。
だいじょぶでーすかあ? こっちはだいじょぶでーす。
私専用のメモリーカード作りまーした。」
アッシュは益々目まいがした。
「あんた専用って、どのハードのメモカをー?」
「ゲームキューブとプレステ2でーす。」
「その2個で3000円ぐらいするんだけどー・・・。」
「おーう、お金の事なら任せてくださーい。」
「私の部屋には、お金を出しても入手困難なものもあるんですよー?」
そう言って、アッシュはハッとした。
「あんた、私の寝室に勝手に入ってたんかいーーーっ!」
「あなたの部屋、素晴らしいでーす。
その価値、私にもよくわかりまーした。
これからもよろしくお願いしまーす。」
「アホかーーーっっっ! バカかーーーっっっ!
乙女の寝室にゃ出入り禁止に決まっとろうがー!」
「おーまいがっ、乙女のくだりは突っ込みませーん。
だからどうか私をゲストさせてくださーい。」
「ああーーーっ、こいつ、イライラするーーーーーーーっ!
何なのー? その喋り方ー。」
「私、ゲームラブになってから、ニッポンラブになりまーした。
今、ニッポン語勉強中でーす。
もちろん主さんもラブでーす。
どうか私を受け入れてくださーい。」
アッシュはジジイの方を向いて、質問した。
「こいつ、まさか下ネタを言ってるわけじゃないですよねー?」
ジジイは ぶはははははは と大笑いした後に答えた。
「その心配は、あんただけにゃないから安心せえ。
こやつは単純にあんたの所有するニッポンの品々に興味があるだけじゃ。」
アッシュは、ムウッとふくれっ面になったが
ピン、と悪巧みが脳裏によぎったらしく、急ににこやかな顔をした。
「えーと、何さんでしたっけー?」
「リオンでーす。」
「リオンー・・・? へえー・・・、“リオン” ねえー。
私の借金を払ってくれたら、私の部屋で自由に遊んで良いですよー。」
その提案にはさすがのリオンも渋った。
3000円どころの騒ぎじゃないからである。
そこにアッシュが背中を目一杯押す。
「あらーーー、残念ですねー。
あなたと同じ名前のキャラが登場するRPGもあるんですよねー。
しかも脇役なのに、そのゲームではそいつが一番人気と言うー。」
「ええっ、そんなゲームがあるんでーすか!
何て言うゲームでーすか?」
「さあー? 教えないー。 へっへっへー
あっ、画像だけ見せてあげるー。」
アッシュは携帯をしばらくいじっていたが、ほら、とリオンに画面を見せた。
「おおっっっ、これはっっっ!
何て素晴らしーいニッポンの黒髪の美しい少年であーる!!!!!」
自分と同じ名のキレイなマンガ絵の少年に、リオンはエキサイトした。
「・・・わかりまーした!
私もニッポンを愛する者として、あなたを助けましょーう。
幸い私は大金持ちで-す。 お金は腐るほど持ってまーす。
多少の施しもだいじょぶでーす。」
その言葉を聞き、アッシュは好感を持った。
「あんた、意外にヤな性格してるんですねー。
好きですよー、そういうヤツー。」
「アリガトゴザイマース。」
このやり取りをアッシュの後ろで聞いていたリリーは
ああ・・・また始末に困るキャラが増えた・・・、と落胆した。
ここまでに掛かった時間が30分強。
他のメンバーはジジイ以外、皆
無言でふたりの掛け合いを聞いているだけだった。
よっしゃあ! これで借金チャラ!
と、拳を握り締めたアッシュが、ふと我に返った。
今は会議の真っ最中なのだ。
つい私事にムキになった自分に、しまった、と後悔したが
何故か皆、微笑ましいとでも言いたげに、ニコニコとしている。
その様子に、アッシュはゾッとしたが
元気になったアッシュの姿を、皆、純粋に喜んでいたのである。
続く。
関連記事: ジャンル・やかた 69 10.4.8
ジャンル・やかた 71 10.4.14
ジャンル・やかた 1 09.6.15
コメントを残す