ジャンル・やかた 72

跡継ぎ探しに旅立ってから、わずか4日でアッシュは帰ってきた。
漆黒の肌と土色の瞳の男児を連れて。
 
「はい、これお土産ですー。」
と、真剣に家に置きたくない木彫りの人形を、長老会メンバーに配った。
 
「これは、何なのかね?」
「何か良い味出してませんー? 手彫りらしいですよー。
 よくわからないけど、何かの呪いの儀式に使うものらしいですー。」
ああ・・・やっぱり・・・、とメンバー全員がとことん気落ちする。
リオンを除いて。
 
 
「にしても、えらく早いご帰還でしたねえ。」
メンバーのひとりが言うと、アッシュのスイッチが入った。
 
「だって、ひどい場所だったんですよー!!!
 昼は暑いしー夜は寒いしー汚いしー臭いしー飯は不味いしー生水ヤバいしー
 ホテルは古いしー設備は悪いしーサービスは悪いしー
 シャワーの出は悪いしーお湯が水だしー・・・」
 
「よその国を、よくそこまで悪く言うのお。」
ジジイがアッシュのグチをさえぎった。
 
「きみは差別主義者かね?」
かっぷくの良い紳士が追求する。
「顔や腹ん中が汚いのは、私も人の事を言えないですけど
 とにかく外側が汚いのが、ほんっっっとイヤなんですー!!!」
 
「ニッポン人は清潔なんでーす。
 不潔なのが許せないんでーす。 ね?」
リオンが解説した。
 
「そうーーー!!!
 良い事言うじゃんー、死にキャラー!」
「え? 何でーすか?」
「あー、いえー、何でもないですー。」
 
(ネタバレ注意解説: 某ゲームのリオンというキャラは途中で死ぬ)
 
 
「で、その子が跡継ぎかね? 何を基準に選んだんだね?」
「ああ、付いて来たんで、連れて来たんですー。」
「・・・え? それだけかね?」
 
「リアル生活にそんな妙な霊感とかを期待しないでくださいー。
 現実なんて、そんなもんですよー。
 教育すれば良いんですー。
 と、言う事で、教育係の派遣よろー。」
 
はあああああああああ・・・・・、と全員が溜め息を付いた。
リオンを除いて。
 
 
「その子は何歳かね?」
「名前は何だね?」
「英語は喋れるのかね?」
質問が相次ぐ。
 
「書類上は5歳ってなってますねー。
 名前はグリスだそうですー。
 英語は喋れないようですー。」
 
「書類上ねえ・・・。」
「もう詳しい経緯を訊くのは止めときましょうよ・・・。」
ニコニコとグリスを見つめているリオン以外は、そう示し合わせた。
 
 
では、このへんで、と会議室を出ようとするアッシュに
ジジイがいらん事を訊いた。
「お供は知的イケメンじゃったか?」
 
ドアレバーに描けた手をピクッと止め、横目でチラッと見て
無表情のままひとことだけ言って、アッシュは部屋を出て行った。
 
「・・・・・・軍人でしたー・・・・・・・。」
 
長老会メンバーは、一斉にジジイを睨んだ。
リオンを除いて。
 
 
続く。
 
 
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