ジャンル・やかた 75

アッシュが死んでから、数十年の時が流れた。
 
館は、いつのまにか “アッシュ館” と呼ばれるようになっていた。
浄化作戦のため、館にできた広報部による宣伝とともに
グリスの時代に立ち上げたサイトに
生前のアッシュが残した言動の数々を、館の住人が何人も書き込み
グリスの後の代で、それは宗教になった。
 
日本人であるアッシュの名を元に
ASU (明日) 教と名付けられたその宗教は
村やクリスタルシティのみならず、国内外に信者が増え
アッシュの墓がある館は聖地となり、巡礼者が絶えなかった。
 
アッシュの墓には、バラの花を奉げるのが習わしとなっていた。
周囲には、真冬でさえバラの花が絶えなかった。
敷地内の温室で、“アッシュ・ローズ” というバラが
栽培されていたからである。
 
 
館では、アッシュの写真集や本やDVDなどのグッズや
敷地内で出来る作物や加工品が売られ
アッシュが言った通り、寄付が投資へと変わり街中が益々潤った。
 
館に住むものは、誇りを持つようになった。
最早、住人は “元犯罪者” ではなくなった。
 
 
浄化が終わったのである。
 
 
館には奇妙な伝説があった。
“ローズレシピ” を付けて屋上に行くと、アッシュの姿が見える、という。
 
この “ローズレシピ” とは
アッシュの寝室用のアロマスプレーのレシピの事である。
 
封印されていたローズの寝室をグリスが開いた時に
部屋の中はローズがいた時のままになっていて
そこにあったノートに書かれていたのだ。
 
 
ローズは殉教者扱いになり、館ブランドのすべての商品には
バラのマークが入れられるようになった。
ローズのアロマ水も飛ぶように売れた。
 
 
“主” の名は、アッシュで最後となった。
館は、亡き主への永遠の忠誠の代わりに、永遠の繁栄を約束された。
 
 
続く。
 
 
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