大きな城下町の隅っこの、大きな家の裏庭で
その家の娘、イキテレラが洗濯をしていた。
そこに声を掛けたのは、野菜売りの女。
「こんにちは、何か入り用はないかい?」
「そうねえ、最近お義姉さまたちが少し太ってきていらっしゃるから
さっぱりしたスープを考えてるんだけど・・・。」
「だったら今朝採れたばかりのカブはどうだい?」
「あら、それは良いわねえ。」
野菜を選びながら、世間話に花が咲く。
「しかし、あんたもよく辛抱しているねえ。
この家の直系はあんたなんだろ?
なのに後妻とその連れ子たちに、召使いのようにコキ使われて。」
野菜売りの同情に、イキテレラは微笑んだ。
「良いのよ、わたくし、家事には慣れていますもの。
お義母さまたちも、悪いお方じゃないと信じていますの。
尽くしていれば、いつか仲良くなれますわ。」
家の中から、女性のヒステリックな声がする。
「イキテレラ! イキテレラ、どこなの!」
「あら、上のお義姉さまが呼んでらっしゃるわ。」
その声を聞き、野菜売りが絶望的な顔をして
まあ頑張んな、とイキテレラに言い残して去って行った。
「何ですの? お義姉さま。」
「イキテレラ、あんたにこの前頼んだドレス、どうなってるの?」
「それなら、もう出来ておりますわ。」
「出来たんなら、さっさと持って来なさいよ!」
姉に手直ししたドレスを着せる。
「胸元の切り替えを鋭角なデザインにしてみましたの。
ああ、ほら、こちらの方がずっとお似合いですわ。」
鏡の前で、義姉が納得したように胸を張る。
イキテレラが、肩のラインを整えながら言う。
「今度からドレスを新調なさる時は
首が少しでも長く見えるものをお頼みになるべきですわ。
お義姉さまの魅力が引き立ちましてよ。」
「イキテレラ! イキテレラ!」
下の義姉が叫んでいる。
「お義姉さま、何でしょう?」
「今夜のメニューは何なの?
あんた、用意が遅いんだから、さっさと取り掛かんなさいよ。」
「はい、ただいま。
今夜はキジ肉のローストにカブのスープです。」
「はあ? たったそれだけ?」
「ええ、お義姉さま、この前の採寸の時に
かなりサイズが変わってらっしゃったでしょう?
少しお食事を控えた方がよろしいと思いますの。
このままじゃ、ドレスを全部新調しなきゃならなくなりますわ。」
「それは困る。」
現われたのは、イキテレラの父親であった。
「うちは貴族とは言え、財政が厳しいのだ。
娘たちよ、我慢しておくれ。」
義理とは言え、父にはそう強くも言えず、義姉は無言で部屋を出て行った。
「イキテレラ、おまえにも苦労をかけてすまないのお。」
父の言葉に、イキテレラは優しく答えた。
「良いのですよ、お父さま。
ご病弱なお父さまに、働けと言う方が間違っていますわ。
さあ、お体に障りますから、お部屋でお休みになっていて。」
イキテレラは父を寝室へと送っていった。
気も体も弱い父と、意地悪な後妻とその連れ子の2人の姉
イキテレラは朝から晩まで、家事に追われる日々であった。
続く
関連記事 : イキテレラ 2 10.5.13
カテゴリー パロディー小説
イキテレラ 1
Comments
“イキテレラ 1” への4件のフィードバック
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こんにちは!
新作が始まって、とても嬉しいです。
名作パロディーが大好物なので興奮しています。 -
あっ・・・、そうか
シンデレラは名作だったか・・・。うわ、それはすまんだったーーー!
どうなるかわからんけど
何かすげえ不安なんで、前もって詫びとく。頑張るけど、努力するけど
申し訳ない事になった場合
本当にすみませんーーーーー。 -
前作・やかたも結構ハマって読んでいたので…
新作にも期待しちゃいます・∪・*ですがあまり気負いすぎず
自然体でいてくださいね~*
執筆もお肌もオーガニックが一番ですから!
たぶん…笑" -
ありがとうー。
うん、そうだよな。
マイペースを心掛けるよ。ただひとつ心配なのは
大真面目にやってても、“ふざけてる”
と受け取られないか、って事。何か、そういう誤解が多いので
そこのところは、指導をお願いしたい。
皆どうか頼む。
手厚いフォローも。( ← ・・・)
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