イキテレラ 3

「おばあさま、うちよりも北角のおうちの方が裕福ですわよ。」
窓を閉めようとするイキテレラに、老婆が慌てて言った。
「待ちな、あたしゃ物乞いじゃないよ、魔女なんだ。」
 
「魔女?」
窓を閉める手を止めるイキテレラ。
「ああ、そうだよ。
 あんたがあまりにも不憫なんで
 ちょっと助けてあげたくなっちゃってね。」
 
 
魔女が持っていた杖を振ると
イキテレラのボロ服が美しいドレスへと変わった。
 
「お次はこれだね。」
庭に生っているカボチャが馬車に
下水から顔を覗かせたネズミが馬に
垣根を渡っていた猫が御者になった。
 
「おおっと、いけない、靴を忘れていた!
 えーと、えーと・・・。」
あたりを見回すも、靴になりそうなものはない。
 
「ちょっと待ってな。」
魔女は一瞬にして消えた。
かと思ったら、次の瞬間には戻ってきた。
「靴はこれで我慢しとくれ。」
 
 
「髪もメイクも、鬼盛りしておいたから
 義姉たちにも気付かれる心配はないよ。
 ・・・どうしたんだい?」
 
美しいドレスに、豪華な髪型になったイキテレラは
呆然と立ちすくんでいた。
 
「これで何をしろとおっしゃるの?」
「だからお城の舞踏会に行かせてあげる、って言ってるんだよ。」
 
 
イキテレラは、フッと笑った。
「空腹なのに、プレゼントがダンスとは・・・。
 ああ、いえ、それも “奇跡” でしょうし
 価値観は人それぞれですわよね。」
 
「何だい? 気に入らなかったかい?」
「いいえ、とんでもない。
 そのお気持ちだけでも嬉しいですわ。
 お城に行けば、何か食べるものもあるでしょう。」
 
「ああ、あんたが欲しい奇跡はお菓子の家の方かい。
 すまないけど、プレゼントってのは
 相手が欲しい物じゃなく、自分があげたい物を贈るものなんだよ。
 さあ、これを履いて。」
 
 
魔女が差し出した靴に、足を入れてイキテレラは叫んだ。
「冷たい! これ、何ですの?」
 
「ガラスで出来た靴だよ。
 それしかないんだ。」
こんなモロそうな靴、大丈夫かしら、とイキテレラはちゅうちょしたが
仕方なく履いてみると、足にピッタリとフィットした。
 
「まあ! あつらえたようにピッタリだわ。」
「それは元々あんた用の靴なんだよ。」
「どういう意味ですの?」
 
 
「今、説明する時間はないんだよ。
 舞踏会はもう始まっている。
 これらの魔法は、今夜の12時で解けてしまう。
 あんたはそれまでにここに帰って来なければならない。
 急いで行かないと、間に合わないよ。」
 
「あらまあ、段取りが悪いですわね。」
「いいから、行っといで!」
 
イキテレラを乗せたカボチャの馬車が走り出した。
 
 
 続く
 
 
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