王の葬儀は厳かに行われた。
国中に弔いの鐘が鳴り響く中、王妃はずっとすすり泣いていた。
イキテレラは、泣ける心境ではなかった。
実の父親を殺すほどの嫉妬、というものが存在するなど信じられない。
だが、現実に “それ” を目の当たりにしてしまったのだ。
人の所業とは思えない。
恐くて恐くて体の震えが止まらない。
その隣で、王子はただ静かに参列している。
その落ち着きが、より一層にイキテレラの恐怖心をかきたてる。
王の葬儀の7日後には、王子の戴冠式である。
世代交代は速やかに行われなければ、国政が乱れる。
今回は “王の暗殺” という大事件であったが
現場にいたのが全員身内であり、誰にも王を殺す動機もない事から
王妃の証言通りに、従者の犯行だと判断された。
従者は、王妃の愛人であった。
「わたくしは戴冠式が終わって落ち着いたら
歴代の王の墓所のある北の寺院に参ります。」
王妃の言葉に、イキテレラは不安を感じた。
「いつまでですの?」
「王を亡くした王妃、つまり皇太后は、寺院にこもって
夫の魂の安息を祈りながら、余生を過ごすのですよ。
もうここには戻って来ませんの。」
「そんな・・・。」
イキテレラの手が震えだし、それを鎮めるかのように
自分の手を重ねながら、王妃が低い声で言った。
「わたくしだけ逃げ出すような形になって、ごめんなさいね。
出来れば、あなたも連れて行きたいのですけれど
それは国政上、許されない事なのです。
戴冠式の後は、あなたが王妃になるのですよ。」
「わたくしには無理です・・・。」
「だけど、するのです。」
王妃は、イキテレラの両頬を手で包みながらささやいた。
「王子には気をつけなさいね。
実の母親が言う言葉ではないけれど、あの子は狂っています。
万が一の時には頼みますよ。
王国には、もう次の世継ぎはいるのですから。」
何が “万が一” なのか、何を “頼む” のか
イキテレラには考えたくもない事であった。
王妃、いや皇太后を乗せた馬車が城門を出て行くのを
イキテレラは涙ながらに見送った。
「我が妃は、いつ見ても泣いているなあ。 はっはっは」
王子、いや王の王妃に対する心無い言葉に
その場にいた者全員が、ギョッとした。
イキテレラは、無言で部屋へと急いだ。
王の言動のひとつひとつがすべて
自分への脅迫に思えて恐ろしくてならない。
戴冠式の時に、イキテレラが勺杖を王に渡す儀式があった。
王は杖を受け取れば良いだけなのに、杖を持ったイキテレラの手を握った。
強く握り締めた手を離さず、自分を睨む王に
イキテレラはどうして良いのかわからず、思わず王の目を見た。
その時が初めて、夫と目を合わせた瞬間だった。
暗く深い茶色の瞳だった。
王は空いている方の手で、勺杖を取りながら
ゆっくりとイキテレラに顔を近づけた。
「それでも私はあなたを愛しているのですよ。」
王は薄ら笑いを浮かべて、イキテレラに口付けをした。
端から見ると、単なる夫婦のキスなのだが
イキテレラにとっては、死刑執行書へのサインにも等しかった。
この時のイキテレラの恐怖を察する事が出来たのは、皇太后だけである。
皇太后は戴冠式が終わった途端、荷造りを始めた。
続く
関連記事 : イキテレラ 11 10.6.8
イキテレラ 13 10.6.14
カテゴリー パロディー小説
イキテレラ 12
Comments
“イキテレラ 12” への4件のフィードバック
-
王子…怖い…
今後がドキドキです~
-
のん、本当にすいません。
↑ これで察してくれ
-
えー;w;
察したらこわくなったんたがっ?w -
うん、そういう意味だ。
さすがだな、ちゃあこw
コメントを残す