イキテレラ 15

王がイキテレラの部屋へと入ってきた。
窓から外を眺め、ニヤニヤしている。
いつになく上機嫌であった。
 
イキテレラには、王のすべてが理解不能でうっとうしかった。
「私はあなたの笑顔を一度も見た事がない。」
この状況で王がそう言いだした時にも、少しも反応しなかった。
 
王は座っているイキテレラの前にひざまずき、その靴に口付けた。
そしてイキテレラの手に剣を握らせた。
「あなたはいつでもこの私を殺せるのですよ。」
 
 
一生懸命に笑いかける王の背後で、ドアがけたたましく開いた。
とうとう民衆たちが城内へとなだれ込んできたのだ。
 
「我が妃よ、愛する我が妃よ!!!
 はははははははははははははは」
 
叫びながら王は連行されていった。
イキテレラは無表情で、それを無視した。
 
 
侍女たちは解放された。
逃げ出した大臣たちの何人かは捕えられ
王とともに、処刑を待つ身となった。
 
イキテレラは、侍女たちの証言により
“囚われの姫” として認識された。
 
 
民衆たちが見守る中、広場に作られた斬首台の前に立たされた王は
司祭に “最後の望み” を訊かれた。
 
王は堂々と高らかに答えた。
「我が妃の微笑み。」
 
かつては好青年であった、その名残りが見られる王のこの答は
街の女性たちのハートにキュンッ絵文字略ときた。
 
 
イキテレラが連れて来られた。
王は後ろ手に縛られたまま、イキテレラの前へとひざまずく。
 
王が見上げているイキテレラの反応を
街中の者たちも注目している。
 
 
しかしイキテレラは眉ひとつ動かさなかった。
まなざしは宙に固定されている。
その態度は、期待に満ちた子供のような王の表情と対比すると
呆けているというよりは、冷酷に映った。
 
王は一瞬うつむいたが、立ち上がり少し微笑みながら
イキテレラに口付けをした。
「永遠の愛をあなたに。 我が妃よ。」
 
王は、斬首台に自ら首を乗せた。
王の首が転がっても、イキテレラは身動きすらしなかった。
 
 
 続く
 
 
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