王がイキテレラの部屋へと入ってきた。
窓から外を眺め、ニヤニヤしている。
いつになく上機嫌であった。
イキテレラには、王のすべてが理解不能でうっとうしかった。
「私はあなたの笑顔を一度も見た事がない。」
この状況で王がそう言いだした時にも、少しも反応しなかった。
王は座っているイキテレラの前にひざまずき、その靴に口付けた。
そしてイキテレラの手に剣を握らせた。
「あなたはいつでもこの私を殺せるのですよ。」
一生懸命に笑いかける王の背後で、ドアがけたたましく開いた。
とうとう民衆たちが城内へとなだれ込んできたのだ。
「我が妃よ、愛する我が妃よ!!!
はははははははははははははは」
叫びながら王は連行されていった。
イキテレラは無表情で、それを無視した。
侍女たちは解放された。
逃げ出した大臣たちの何人かは捕えられ
王とともに、処刑を待つ身となった。
イキテレラは、侍女たちの証言により
“囚われの姫” として認識された。
民衆たちが見守る中、広場に作られた斬首台の前に立たされた王は
司祭に “最後の望み” を訊かれた。
王は堂々と高らかに答えた。
「我が妃の微笑み。」
かつては好青年であった、その名残りが見られる王のこの答は
街の女性たちのハートにキュンッ絵文字略ときた。
イキテレラが連れて来られた。
王は後ろ手に縛られたまま、イキテレラの前へとひざまずく。
王が見上げているイキテレラの反応を
街中の者たちも注目している。
しかしイキテレラは眉ひとつ動かさなかった。
まなざしは宙に固定されている。
その態度は、期待に満ちた子供のような王の表情と対比すると
呆けているというよりは、冷酷に映った。
王は一瞬うつむいたが、立ち上がり少し微笑みながら
イキテレラに口付けをした。
「永遠の愛をあなたに。 我が妃よ。」
王は、斬首台に自ら首を乗せた。
王の首が転がっても、イキテレラは身動きすらしなかった。
続く
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