イキテレラ 17

「ふむ・・・。」
書類を読みながら、屋敷のホールを足早に歩く中年男性。
 
「いかがでした?」
スレンダーな体型の女性が、男性に駆け寄る。
 
「遅かったよ。
 王妃は火あぶりにされたそうだ。」
「火あぶり? よりによって何故にそのような残酷な刑を!!!」
女性は思わずよろめき、男性が慌てて支える。
 
 
「王が乱心したのは王妃のせいで、王妃は魔女だとなったのだ。」
「・・・はっ、この時代にバカらしい!」
ソファーに横になった女性が、吐き捨てるように言った。
「そのような野蛮な国は、早急に根絶やしにすべきですわ。」
 
「いいのかね? きみの祖国だろう?」
「いまや、その出自も恥にしかなりませんわ。
 王妃を魔女扱いして火あぶりだなど・・・。」
 
「王妃はどのような女性だったのかね?」
「自分にも他人にも興味がない人でしたわね。
 そのせいで、周囲はどんどん傷付いていく。
 本人に自覚はないのでしょうけどね。」
 
「義理とは言え、妹に対して辛らつじゃないかね?」
「事実ですもの。」
 
 
イキテレラの父と義母は、国境近くの温泉地へと移り住まわされた。
継子イジメの噂のせいもあったが
父の具合があまり良くなかったからである。
程なくして、父は亡くなった。
 
父の訃報は城へも届けられたが
イキテレラを外に出したがらない王によって握り潰された。
代わりに王は大臣たちに命じて、義姉たちに縁談を用意する。
 
上の義姉は、母を伴って隣国の裕福な商人へと嫁いだ。
下の義姉は、同じ隣国の軍人の家系へと嫁いだ。
 
“王妃の義姉” という肩書きによる
恵まれた縁談で、分不相応ではあったが
ふたりとも妻として母として、家を立派に仕切っている。
 
 
手紙を読み終えた女性は、窓際に歩み寄った。
妹の夫は快勝したらしい。
 
これでまた階級が上がる事でしょう。
だけど生国がなくなったなど、お母さまには言えないわね。
この頃少しお体が弱ってらっしゃるし。
 
イキテレラ・・・
あのままあの家にいれば、あなたはあなたでいられたでしょうに。
生まれつきの召使いが、王妃になったのが悲劇だったんだわ。
 
女性は手入れの行き届いた庭を、満足気に眺めた。
窓に映った自分に気付き
すっきりと開いたドレスの胸元を整え直した。
その顔に、水滴が一筋垂れたのは雨ではない。
 
空は優しい光にあふれていた。
秋が深まる時の、遠く高い淡い青。
 
 
冬が始まる前に、ガラスの国はなくなった。
何もしようとしないひとりの女性によって、すべてが滅びたその奇跡。
 
 
        終わり
 
 
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       カテゴリー パロディー小説
       
       イキテレラ 1 10.5.11     

Comments

“イキテレラ 17” への12件のフィードバック

  1. チョウチャンのアバター
    チョウチャン

    何で3日前?と聞かれても「なんとなく」としか答えられないー(笑)
    私の方もこれといって変わった事はないよー

    イキテレラ の結末がなんだか納得いかないぃ!
    (`□´)!

  2. がぶりのアバター
    がぶり

    ↑天然記念物発見ww

  3. あしゅのアバター
    あしゅ

    チョウチャン、私はイキテレラの
    話の流れ自体が納得いかないよ!
    何でこんなんなっちゃったんだろう・・・。

    もう1回パロディで、今度は楽しい話にする!
    ロマンスとは言わない。
    でも、ちょっとチャレンジはしてみるつもりw

    がぶり、そう言えば
    何で “記念物” なんだろうな。
    何の記念なんだろう。

    念に記する・・・?
    「覚えておけ」 って意味なんかな?

  4. 酔花のアバター
    酔花

    ロマンスはどこいったん?
    ハーレクインロマンス~~~!!

    二人の義姉が「立派に家を仕切ってる」だとぉ~?
    納得いかんなぁ~~(笑)

    アタシは・・・
    王のオカンとイキテレラがどうのこうのと・・・
    Lの世界ばりにドロドロと・・・ってのを
    一瞬夢見たではないかぁ~~(笑)

    次作、期待してるよん♪

  5. ちゃあこのアバター
    ちゃあこ

    イキテレラ楽しみに読んでたよー^^

    私の中では、もちょいイキテレラ生きてて欲しかったんだが、

    『何もしようとしないひとりの女性によってすべてが滅びた…』

    というところに、ナンかきた!ゾクッというか…

    っで、チャンおひさやなー^^ノ

  6. あまぐりのアバター
    あまぐり

    こんにちは、今回も熱中してストーリーを追わせていただいていました。

    「登場人物を甘やかさない」ストーリーに、いつも感銘を受けています。
    「自分にも他人にも興味の無い人」というところが
    イキテレラの不幸の原点なのですね。

    楽しい話も読ませていただきたいです!

  7. 椿のアバター
    椿

    あああ…なんだかとても悲しい終わり方でした(;ж;)
    でも妙に清々しいような不思議な気分です。

  8. けるのアバター
    ける

    >私はイキテレラの
    >話の流れ自体が納得いかないよ!
    >何でこんなんなっちゃったんだろう・・・。

    あくまで想像ですが・・・

    書き始めた際に、
    結末が決まっていなかったからでは?

    「やかた」の後書きで、
    『目的地があって、そこまでの道のりはわかるけど、
    それをイチイチ説明するのが困難なのと同じで、
    結末に向かって設定とかを細かく書いていたら
    想像以上に長くなってしまった』
    みたいなことを言ってた気がします。

    だから、たとえばの話・・・

    どっか楽しいところを探しに行こう、ってドアを開けても
    手探りで進んでいったら、道に迷ってしまうでしょう。

    なんとか、楽しさの匂いをかぎわけるようにして、進む。
    でも、とりあえず、わかる道に出たから、家に戻る。
    あれれ、こんなはずでは・・・

    ってことじゃない?

    なんとなく。

    見当違いだったらスマソ!

  9. miuのアバター
    miu

    完結おつかれさまです*
    まさか主人公処刑でジ・エンドとは…うーん、後味引きますね。

    とりあえず、
    王子様ったら、DQN!
    (これが言いたかっただけ)

  10. あしゅのアバター
    あしゅ

    酔花・・・、まさか自分にここまで
    “ロマンスの種” がなかったとは・・・。
    通りで、リアル人生も花開かんわけだ。

    要するに、義姉もイキテレラに甘やかされて
    悪いヤツになってたんだよ。

    ちゃあこも読んでくれてたんか!

    王子もイキテレラの態度のせいで狂った、と。

    皆、元々はちゃんとした人間だったのに
    トラブルメーカーがいると・・・、みたいな。

    あまぐり、ありがとうー。
    そうなんだ。

    イキテレラのその考え方は
    自分をも不幸にした、というのを
    書きたかったんだよー。

    椿、イキテレラが自業自得だからだ。
    街も滅びるし、身の程をわきまえないヤツ全滅!
    という、清々しい話だろ?

    ける、図星・・・。
    今日の記事で言い訳をタラタラする。

    それほど意外な展開で
    見切り発車がこれほど苦しい道程とは・・・。

    いや、思うがままに書いていけば良かったんだろうけど
    “ロマンス” という縛りと
    “本当は残酷だったあしゅ童話”
    (こんなタイトルの本、あったよな?) 
    になりたくなくて無理したよ。

    うーん、自分の感覚って
    かなり固定して存在しているものなんだなあ。

    miu、その単語、一般的になってほしいよな。
    ロクでもねえヤツを、これほど端的に表す言葉はないぞ。
    DQN。

    でも、王子は私の中では被害者だ。
    イキテレラが嫌いだなあ。
    書いてる側が、ここまで言って良いのかわからんが・・・。

  11. のんのアバター
    のん

    ちょっと怖かったですけど面白かったです!

    最後はなんか王子(王?)が可哀想でした…

    でもあしゅさんのラブロマンスも読みたかったなぁ(笑)

  12. あしゅのアバター
    あしゅ

    王さま、可哀想だよねーーー。
    イキテレラが振り向かないもんだから
    自分の殻に閉じこもった愛になっちゃったんだろうなあ。

    次は楽しい話にするよ。
    人死にも出さないようにして。
    (出来る限り)

    王子と姫の話をやり直したいんで
    もいっちょパロディでやってみる。
    王室物、自分で考えるのは無理っぽい。

    で、・・・ちょびっとラブも入れるようには
    精一杯、何とか、一応、心掛けて。
    (どんどん弱気に・・・)

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