ここは、昔々にあったかも知れない、とある王国。
大きなお城の立派な正門前には城下町が広がり
そこから隣の国まで続く街道の両脇には
深い深い森が広がっておりました。
気持ち良く晴れ渡った真っ青な空に、白い雲がフワフワ浮かび
そよ風に揺れる木々の枝に小鳥たちが愛の調べを歌う、その森
・・・を、黒雪姫は必死に走っていた。
「姫様、いくら命令とは言え
あなた様は王の血を引く高貴なお方。
我々には殺す事なぞ出来ません。
どうかお逃げください。
人の目の届かぬ、この森の奥深くへと。」
あのクソババア、おかしいおかしいと思ってはいたけど
伝統的な継子イジメだと油断していたわ
まさか命まで狙っていたとは・・・。
どうすべきだろう・・・、何の用意もしていない。
あの者たちも、どうせ逃がしてくれるんなら
サバイバル道具一式ぐらい渡してほしいわ。
どこまで気が利かないの?
だからただの従者止まりなのよ。
黒雪姫は立ち止まり、木に手をついて肩でゼイゼイと息をした。
大体 “ピクニック” に、ドレスにハイヒールで行かせる?
私の衣装担当メイドたちもグルなの?
従者の “逃げろ” という言葉は
王の唯一の嫡子、というこの私の地位をもってしても
あの継母には敵わない、という事なのかしら。
こうなるまで何故気付かなかったのかしら・・・。
くそう、黒雪姫、一生の不覚!!!
黒雪姫は、木をドスッとどついた。
いえ、今更嘆いても、もうしょうがない。
こうなりゃ出来るだけ遠くへ逃げよう。
戦闘には自信があるから、ピクニックメンバーは倒せるだろうけど
規模が見えない城内の敵相手のバトルは、犬死にの可能性が高い。
とりあえず、追っ手が来られないところまで逃げて
落ち着いた後に、状況を充分に調査してからだわ。
黒雪姫は、一歩一歩、足を前へと踏み出した。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
「それは黒雪姫です。」
「な、何とな!!!」
驚く継母に、鏡が呆れ口調で答える。
「えええー? こっちがビックリですわー。
そこ、驚くとこですかあ?
フツーに考えても、年齢的にあっち有利でっしゃろ。
てゆーか、とりあえず “この国で” って話で聞いといてー。
世界、結構広いから、そこまで責任持てんわあ。」
「うぬぬぬぬ・・・、特殊能力を持っていなければ
おまえのような無礼物なぞ、即座に割ってしまえるのに・・・。」
怒りに震える継母に、鏡が更に追い討ちを掛ける。
「凡人は大人しく天才の言葉を聞いとれ、って事ですわー。」
「おのれーーーーーーーっっっ!!!」
ガッシャーーーーーーーン
継母は、鏡の横に積み上げている皿を1枚壁に叩きつけた。
「そうそう、そうやってザコでも割って気を晴らしとき。」
継母は鏡をキッと睨んだ。
鏡の中には、怒りに歪んだ自分の顔が映っている。
「おお、いけないいけない
シワが固定されてしまうわ。」
眉間のシワを指で伸ばす。
継母が黒雪姫を殺す決心をしたのは、この日であった。
その2年後に、黒雪姫はピクニックイベントに行かされる。
続く
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カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
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