「ういーっ、今帰ったぞー、土産だー。」
ヒモで結ばれた包みを渡す賢者に、黒雪姫の頭部にツノが生えた。
「深夜に帰宅した泥酔サラリーマンかよ?
ちゃんと終電に間に合ったんでしょうね。
タクシー代なんて、うちじゃ捻出できないわよ!」
「む、いきなり厳しい言葉だの。」
ムッとする賢者に、黒雪姫が怒鳴った。
「帰ってくるのが遅いのよ!
その間、てか今! 私、一度殺されたし!!!
もう、頭くるーーーっ!!!!!」
木の幹にミドルキックを連発し、荒れ狂う黒雪姫の頭上を
賢者が右往左往しながら、オドオドと訊く。
「一体、何があったんだ?」
「あー、説明するの面倒くさーーーーーっ!
仕事が遅いヤツは、せめて 『話はすべて聞いていた』 と
物陰から出てきて、手間を省かせてくれないかしら?」
言ったかと思うと、賢者に枝を投げつけ
賢者はそれを華麗に避けようとしたが
進行方向に逃げたので、見事に当たった。
わき腹からグキッとイヤな音がした。
「怒りは・・・受け止めねば・・・ならぬ・・・。」
地面に落ちて、痛みにフルフル耐える賢者を
小人たちが黒雪姫から遠ざけれるように運ぶ。
フテ腐れる黒雪姫に代わり、小人たちが説明をした。
その時に賢者は、やっと人間が2人増えている事に気付いた。
「およ? そなたたちはどこから来た?」
王子は髪をかき上げつつ、伏目がちに憂いた。
「ようやく気付いてもらえましたか・・・。」
「このお方は北国の王子で、わたくしは執事です。
王子が南の森を調べてみたい、と仰るので
短期間の予定で森に入ったら
いつの間にかここにたどり着いていたのです。」
王子が前髪をかき上げた。
「冒険心は、男の勲章ですよ、ふっ・・・。」
「何かこの王子、人の善意によって生かされてるタイプじゃない?」
黒雪姫が大声でする内緒話を、小人がいさめた。
「健全な童話を、あんたひとりで邪悪にしている事に
早く気付いてくれんかのお。」
「で、賢者さまは妖精王さまにお会いになれましたか?」
小人の問いに、賢者は得意げにうなずいた。
「うむ、驚くべき話も聞けた。」
賢者は、いかにも荘厳な雰囲気での会談のように装ったが
実は祭の飲み会場での、ドンチャン騒ぎの中でのやり取りであった。
「数年前に、妖精の森から何者かが飛び出ていった事があった。
各界は交じり合わないように、結界が張ってあるのだが
故意か事故か、それが一部ほころんだのだ。」
「そんな事があったんですかい。」
「うむ、混乱を招かぬよう、極秘に調査されたが
誰がどこに出て行ったのか、突き止める事は出来なかったのだ。」
「で、それ以後、何事もなかったのだが、黒雪姫が現われた。」
「大きな災いじゃよな。」
ゴスッ うっ・・・
言った小人の後頭部に、黒雪姫が正拳突きをかます。
「今回の事には、妖精王さまも驚いていらした。
結界のほころびは修復されたはずだったからだ。
人間が妖精の森の結界を破れるわけもない。
妖精王さまは今、鋭意調査中なのだ。」
「結局、何もわかりませんでした、ってわけ?」
賢者はムッとしたが、黒雪姫がたたみかけた。
「いい?
数年前の結界のほころび、さっきの鬼ババの出現
これ、関係大アリだと思う。
だって鬼ババ、後妻に来た当時はまだノーマル・ババアだったもん。
ヘンになったのは、数年前からなのよ。
つーまーりーーーーー」
黒雪姫はビシッと賢者を指差した。
「妖精の森から出て行った何かが、后をおかしくした!
そう考えるのが妥当じゃない?」
賢者は、うーむ、と考え込んだ。
「后がここに現われたと共に、王子たちも迷い込んだ・・・。
出て行った何かが、后を通そうと開けた結界の穴から
王子たちが偶然入って来た、で説明が付くな。」
「王子たちが善意の第三者ならね。」
黒雪姫の言葉に、執事が静かに反論した。
「おそれながら申し上げさせていただきますと
我が王子は、二心のないお方です。」
「ニシン? カズノコの親の?」
「下心とか裏表がない、って事じゃよ。」
「ああ、要するに単純バカって事ね。」
「頼むから、喋る前に少し考えてくれんかのお。」
黒雪姫は、四方八方から蹴られた。
いくら小人とはいえ、キックは結構痛い。
しかも毎回7回以上蹴られている。
暴力はひとり1回を厳守させねば!
黒雪姫は、拳を握り締めた。
大事なのは、そこじゃないと思うんだが。
続く
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