小人のひとりが黒雪姫の前に進み出た。
「結論は出た?」
腕組み仁王立ちで訊く黒雪姫は、とても被害者とは思えない。
「んと、ひとつ頼みがあるんじゃが
もし妖精王さまにバレた時には・・・」
「はいはい、わかってるって。
私があんたらを脅して従わせた、って言うから。」
小人たちは、ホッとして顔を見合わせた。
王子がまたしても執事にささやく。
「自分を犠牲にする義侠心もある。」
「て言うか、脅し、事実にさせてもらうから!
さあ、あなたたち、私のためにチャッチャと動かないと
木に吊るしてお仕置きだからね!」
ひいいいいいいいいいいーーーーーーー
と、叫びながら逃げ回る小人たちを
いいから! と、黒雪姫が集めて回る。
ダイニングの椅子にドカッと座り、黒雪姫が話し始めた。
「あのバカ賢者、私の話を最後まで聞かずに飛んで行ったけど
私・暗殺未遂事件、まだ続きがあるのよ。」
「何じゃ?」
「窒息して倒れた後、まだ微かに意識があったのね。
その時に聴こえたのが、鬼ババが帰ろうとしたんだと思うけど
『鏡、鏡、さあ、通して』 って言ったのよ。」
小人たちがザワついた。
「“通して” とは、もしかして結界の穴かいな?」
「うん、わしもそう思ったぞ。」
「鏡とは?」
「あのね、鬼ババ、よく城の塔に行くようになってから
おかしくなったような気がするんだけど
その塔から時々、ガラスが割れるような音がしてたのね。
侍女が言ってたんだけど、大量の皿を塔に運ばせて込んでいて
塔からは割れた皿を回収させてるんだって。
んで、その部屋には、大きな鏡があるんだって。
布をかけてあったけど、光が反射してチラッと見えたらしい。」
「何じゃ?
その部屋で鬼ババは、何のために皿を割るんか?」
「うーん、そこは私もよくわからないんだけど
“鏡” ってのがキーワードのような気がするわ。」
「鏡・・・、鏡・・・」
小人たちは考え込んだ。
「ここじゃ、猛禽類が賢者なぐらいだから
鏡が動いても何の不思議もなくない?
そういう部族、いないの?」
黒雪姫のムチャ振りに、小人が呆れた。
「いくら妖精とは言っても、無機物は動いてはおらんぞ。」
「・・・そうよねえ・・・。」
黒雪姫も、諦め顔になった。
「で、もうひとつ解せないのが、鬼ババが
『これで私が世界一の美人よーっ!』 って叫んでたんだけど
風鈴が鳴らなかったのよねえ・・・。」
私の時は警報機のごとく鳴ったのに・・・
と、黒雪姫が憮然としている横で、小人たちが騒然とした。
「え? じゃあ鬼ババは、風鈴も認める美人って事じゃよな?」
「ちょっと待て、その鬼ババを抑えてNo.1なのがこの女だろ?」
「じゃ、この女、美人なのか?」
小人たちが風鈴の周りに集まり、口々に唱えた。
「黒雪姫は美人。」「黒雪姫は可愛い。」「黒雪姫は美しい。」
風鈴は気が狂ったようにジリジリ鳴りまくる。
「うおっ、鼓膜が損傷する!」
「こんなにやかましかった事は、かつてない!」
「わかった、すまんじゃった、鳴り止んでおくれ。」
誰もが勘違いしているが、風鈴が鳴るのは嘘を付いた時だけ。
本人が事実だと信じているのなら、それは嘘ではない。
継母は本当に自分を、世界一の美人だと思い込んでいるから
風鈴は鳴らなかったのである。
「うむ! やはり黒雪姫はブスで決定じゃな!!」
背後にどんどん暗黒の闇が広がっていく事を
満足してうなずき合っている小人たちは、まだ気付かなかった。
王子と執事は、さりげなく席を外した。
続く
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カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
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