野原の1本の木の下に、長テーブルが置かれていた。
お茶や軽食が乗っている。
ウサギを椅子に縛りつけて、お茶を飲ませ菓子を食わせる。
「嫌がらずに飲み食いしたわね
よし、毒は入ってない。
さあ、食いましょう、いただきまーす。」
皆が楽しく茶をしている横で、縛られたウサギが訊く。
「俺はいつ解放されるんだ?」
「色々答えたらじゃないかのお?」
「じゃあ、早く訊いて放してくれ。」
「えーと、質問、何でしたっけ?」
ボケボケな王子である。
「♪ あっはっはー、バカなウサギ
女王さまは怒り心頭
兵隊たちが責めてくるー ♪」
歌声がする方向を、黒雪姫以外が見る。
「・・・?
何であんたは見ないんじゃ?」
小人の問いに、黒雪姫が答える。
「どうせニヤついてる猫でしょ?」
苦々しい表情の黒雪姫。
「・・・当たりじゃ・・・。 何故わかる?」
「おい、それより兵隊が来る、って言ってるぞ。」
ここで黒雪姫がようやく返事をした。
「あ、それ大丈夫。
灯油とライターくださーい。
一瞬でカタが付きますのでー。」
茶を飲みながら、明るい声で言う黒雪姫に
何じゃ? どうしてじゃ? と、口々につぶやく小人たちだったが
向かってくる兵隊が見えると、全員が納得した。
「なるほど、紙か。」
某メルヘン名物のトランプの兵士である。
「こんなん、素手で破れるわ!」
黒雪姫が、兵士を持ち上げては頭上で破り捨てていく。
どう見ても、怪獣大戦争である。
小人や王子たちも、加勢する。
「ほりゃほりゃ、松明じゃぞー。」
「王子さまソード!!」
「執事ムチ!」
「メラ!」
えっ、誰? 何でドラクエ? しかも最弱呪文・・・。
途中いらん実況をはさみつつも、瞬時に兵隊を全滅させたご一行。
「わしらも頑張ればやれるもんじゃのお。」
「頭脳派じゃが、案外運動もいけるかも知れん。」
暴力沙汰の達成感に小人たちが浸っている隙に
ウサギが縄を緩めて逃げ出した。
「あーあ、だから食おう、って言ったのにー。」
「あんた、本気じゃったんか!」
「人類以外の生き物 = 食い物。
人間っちゃあ、そういうもんよ。」
サラッと鬼畜発言をする黒雪姫の隣で、王子が優雅に微笑んだ。
「この姫と私を、一緒に考えないでくださいねー?」
この王子も大概な人格である。
いち早く冷静になった小人のひとりが、問題提起をする。
「なあ、この惨状はどうするんだ?」
そこいら中に転がっている千切られたトランプたちは
上半身と下半身に分かれてなお、動いていた。
カサコソと音を立ててジタバタしているその光景は
何かの虫のようでもいて、ちょっとグロテスクである。
「もう何も出来んじゃろうから、放置で良いだろう。」
「しかし、哀れ過ぎないか?」
小人たちが、オロオロし始めた。
ひとりが感情に支配されると
残りの小人たちに、その感情が次々に広がっていく様は
まるで伝染病のようである。
「じゃあ、とどめを刺せば良いのね?」
黒雪姫がマッチを取り出した瞬間、小人たちが慌てた。
「わーーーーーーーっっっ! 止めてくれ!」
一斉に黒雪姫に飛び掛かる。
この黒雪姫小人ブドウ状態も
幾度となく繰り広げられてきた風景である。
小人たちの矛盾した言動に、黒雪姫が怒り始めた。
「あなたたち、何がしたいのよ?
イクサって言うのは、こういう事なのよ?
普通は敵の、血まみれ内臓ドバーの死体が
目の前に山積みになるわけ。
今回は紙で、まだ動いているだけマシでしょう!」
黒雪姫の激怒に反論が出来ずに
うつむいて黙りこくっている小人たちを
王子がしゃがみ込んで、優しく慰める。
「まあ、正当防衛だとしても
他人を傷付けるのは気分の良いものではありませんよね。
でも彼らは、普通の生き物ではないようですので
その内、自力でくっつくかも知れませんし
そっとしといてあげる、というのはどうでしょうか?」
この王子の提案を、欺瞞だとわかっていても
すがりついてしまう小人たち。
「そうじゃな。」
「きっとわしらと違う構造なんじゃ。」
「とりあえず、復活を祈ろうぞ。」
自分たちにだけ都合の良いプラス思考に
黒雪姫が冷淡につぶやいた。
「最後まで殺してあげるのが、勝者の義務なのに・・・。」
続く
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カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
黒雪姫 1 10.7.5
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