黒雪姫 27

約10m四方の盤に、デカい駒が並び
両陣営には高い審判台のような椅子に座った女王と小人がいる。
この2人が駒の行く先を指示し
駒はそこへとノタノタ歩くのである。
 
黒雪姫と小人4人以外の駒は、駒の形のかぶりものをしている。
2本の足が見えているので、中身は人間のようである。
 
 
「ポーン、d3へ。」
「ポーン、e6へ。」
 
ゲームが始まったが、盆提灯みたいな形のやつばかりが動き
ルールを知らない黒雪姫は
ただ立っている事に、早くもイライラしてきた。
 
「ね、このゲームって、どのぐらい時間掛かるの?」
ナイトの位置にいる小人に訊く。
「さあて、早くて数十分じゃないかのお?」
 
その返事に予想通りブチ切れる黒雪姫。
「ええーーー、その間立ちっ放し? 冗談じゃないわ!」
 
 
黒雪姫は目の前の味方の提灯を突き飛ばし
相手の陣地に、ドドドドドと走って行った。
 
「提灯ゲーット!」
叫んだ途端、黒雪姫が飛ぶ。
そして提灯の腹に蹴りを入れた。
 
「おおっ! 飛び蹴りじゃ!」
「飛び蹴り、リアルで初めて見たぞ。」
「本当に出来る技なんじゃなあ。」
 
小人たちは、ヘンなところに感動している。
黒雪姫と一緒にいて、感性が鈍ったのかも知れない。
 
 
「塔も排除!」
相手ルークの頭部を掴んで、自分の膝にブチ当てた。
ポーンとルークは、数歩フラついて前のめりに倒れた。
 
「な、何をしておる! やめぬか!!!」
怒る女王を見上げて、黒雪姫が不敵な笑みで叫ぶ。
 
「生きてる駒は、言う通りに動かない事も多々あるのよ!
 そんな事も知らずに、気軽に人を動かそうなど
 女王の心得を一から学び直してこい!
 つい最近まで帝王学を学んでいた私に勝とうなど、10年遅いわ!」
 
 
おりゃ、馬ダウン! タージマハ-ル (ビショップの事らしい) 死刑!
と周囲を襲う黒雪姫に、女王が肩を落として言った。
「参った・・・。 私の負けじゃ。」
 
「参ったんかい!」
うなだれた女王を見て、小人たち全員が驚く。
 
 
「まあ、参るかもなあ・・・。」
盤上の惨劇の跡を見て、納得もする。
 
黒雪姫はキングを掴んで、タコ殴りにしている真っ最中であった。
周囲は、阿鼻叫喚の地獄絵さながらに
駒がうめきながらゴロゴロ転がっている。
恐ろしい事に、敵味方両方が・・・。
 
 
「で? 勝った私へのご褒美は?」
汚いマネをしておきながら
大威張りで報酬を要求する黒雪姫。
 
「女王・・・」
「にはならなくて良いから、他の!」
 
「・・・・・・・・・」
女王は無言で目を泳がせる。
 
 
「女王になるメリットとデメリットは?」
黒雪姫の執拗な追求に、女王が吐く。
「メリットは、この駒を動かせる。
 デメリットは次の人が来るまで女王を辞められない。」
 
げっ、そんな役目を私に押し付けようとしてたわけ?
と、黒雪姫は少し立腹したが
すっかり落ち込んだ女王に、小人たちが口々に同情の意を表する。

「自由にならんのか。」
「・・・可哀想じゃのお・・・。」
「どうにかしてやれんかのお。」
 
ほんと、こいつら甘いんだから、と思ったが
女性がショゲてるのは、ほんの少し気の毒なような
そんな感じも、しないでもない。
 
 
「わかった。 女王の任を解いてやる。
 あなたは好きなところに行けば良い。」
黒雪姫は、女王の頭から王冠を取った。
 
その瞬間、女王の赤いドレスはポンッと地味な服へと変わった。
 
 
 続く
 
 
関連記事 : 黒雪姫 26 10.9.22
       黒雪姫 28 10.9.29
       
       カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
       
       黒雪姫 1 10.7.5  

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です