黒雪姫 35

目が覚めたら、城の自分のベッドだった。
「えええ? まさかの夢オチ?」
黒雪姫は混乱した。
 
あっ、お継母さま!
お継母さまはどうなってるんだろう?
ドタドタと食堂に駆け込む黒雪姫。
 
既にテーブルについている父王が注意をする。
「これ、黒雪、おまえはいつまで経っても落ち着きがない。」
継母の方を見ると、目を伏せて無言でツンと座っている。
 
やっぱり夢だったの?
動揺しながら、テーブルにつく。
顔も洗わずに。
 
 
城の屋上から見る森は、鮮やかな新緑だった。
城下町もいつもと変わらぬ賑わいを見せている。
塔に鏡台はなかった。
 
「姫さま、ここにいらしたんですか。
 おやつのケーキはどれになさいます?」
侍女がケーキが並んだトレイを持ってやってきた。
 
黒雪姫は気付かなかったが
あの日、一緒にピクニックに行き
黒雪姫暗殺完了偽装のために
ガケから落とされた侍女のひとりである。
 
「あ、う、うん、これとこれとこれと・・・。」
とまどいながらも、何種類も選ぶ黒雪姫の耳に
飛び込んできたのは、継母の言葉だった。
 
 
「黒雪、少しは控えなさい!
 せっかく殿方に恋されたというのに。」
 
 
黒雪姫は一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻した。
軽くお辞儀をして立ち去る侍女の背中を見ながら
つぶやくように訊く。
「・・・また会えると思いますか?」
 
「さあ、どうかしらね。
 何しろこの世界は、一瞬でどうなるかわからないみたいだから。」
 
継母はその気取った表情の顔を、扇で仰いでいる。
何それ、結局どっちなの?
「私は奇跡を待って、いかず後家ですか?」
 
 
継母は ほほほ と笑った。
 
「あなたの事だから、求婚してくれるのは
 爬虫類ぐらいしかいないでしょうよ。」
 
黒雪姫も笑った。
「ヘビに騙されるぐらいなら
 惚れられた方が、なんぼもマシでしょうが。」
 
そしてふたりで20cm距離で、笑いながら睨み合った。
突如、上空に暗雲が立ち込み始める。
 
 
「おうおう、本当の母娘じゃないというのに
 相変わらず仲が良いのお、おまえたち。」
 
父王の、まったく状況を読めていない言葉に
同時に鬼のような顔で、ギロリと振り向く継母と黒雪姫。
王はニコニコと微笑んでいる。
 
「はあ・・・、気楽でよろしいわね、殿方は・・・。」
「その手にあるものを守るために
 どんだけの犠牲が払われたかも知らずにねえ・・・。」
 
溜め息を付きながら散会する母娘に、王がアワアワする。
「お、おい、わしは仲間外れか?」
 
 
「・・・とりあえず東国存続の保険として、世継ぎの出産よろ。」
黒雪姫が去りながらそう囁くと、継母が腕組みをしながら応えた。
 
「まかせなさい。 ほーっほほほほほ」
 
突然、大粒の雨が降り始め、空に雷光が走った。
何故か、悪役風味の演出しか似合わないふたり。
ニヤリと不敵に微笑み合いながら、それぞれ城内へと消えた。
 
 
わけがわからず、うろたえる王だけ
取り残されてズブ濡れ。
 
 
 続く
 
 
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       カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
       
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