ようやく荒野手前まで着いた。
臨時に張られたテントのひとつで
黒雪姫を中心に、幕僚たちの会議が開かれていた。
「では、ここら一帯を切り開いて関所を作ろう。
私は明日荒野に入り、そのまま北を目指す。
供は4人、途中で交代させつつ行く。
交代の際には、こちらは新しい地図の写しを持たせるので
そちらからは飲食物を頼む。
何かあったら、その都度ハトを飛ばす。」
黒雪姫が説明していると、テントの外が騒がしい。
「何だ? 何かあったのか?」
隊長が顔を出すと、兵士が動揺して言った。
「今、北国の使いという者がやってきました!」
テントの中も、ザワついた。
北国? 北 “国” ?
神さまたち、ちゃんと北国を直してくれたんだ!
黒雪姫は安堵のあまり、胸を押さえて手を机に付いた。
「北国の方も、国交のために南下をしていたらしく
荒野の向こうに宿泊地を設営したそうです。
それで明日、北国の高官が来るので
こちらの長と謁見したいと申し出ております。」
「ふむ、礼に適った申し出じゃの。」
隊長がヒゲを撫でながら、満足気につぶやく。
「では、明日は私が行こう。」
黒雪姫の言葉に、侍従長がジロッと睨んだ。
「ドレスを着てくださいね。」
驚く黒雪姫。
「えっ? ドレスなんか持ってきてるの?」
「もちろんです。」
「この鍛え上がった体で?」
「はい。」
「男の女装に見えると思うよ?」
「致し方ありませんな。」
まさかこんな落とし穴があるとは!
黒雪姫は愕然とした。
東国が変態国に思われなきゃ良いのだが。
翌日、朝早くから湯浴みをし、ドレスを着た黒雪姫。
「もうーっ、無防備に日焼けなさるから
ファンデのノリが悪いわんっ。」
「すまん、こういう事態は想定してなかったもんで・・・。
と言うか、おまえ、いつからいた?」
クネクネしながら黒雪姫にメークアップをするのは
オカマの兵士である。
「今まで出番がなかったんで、お気付きにならなかったでしょうけど
姫さまいらっしゃるところに、美容係は必ずお供しますわん。
こういう場所には女性は無理だから
男のアタシが待機してますのよん。
やっとお役に立つ事ができて、嬉しいですわん。」
「へ、へえー・・・。」
とまどう黒雪姫に、カマがズケズケ言う。
「ああーーーんっ、これじゃメイクしない方がまだマシなぐらいっ!
口紅もアイシャドウも似合わないし
お粉も顔中浮いちゃったわんっっっ!」
「あ・・・、すま・・・。」
ものすごく無礼な事を言われてるのに
申し訳ない気持ちになるのが不思議である。
もう、メイクアップなんだかメイクダウンなんだか
ドレスアップなんだかドレスダウンなんだか
わからない身支度を終えて、北国の使者を待つ黒雪姫。
「おいでになりました。」
その声に、テントを出て見ると
荒野の向こうに、数人の人影が見えた。
その人影が徐々にくっきりし始めた時
その内のひとりがこちらに走り始めた。
黒雪姫も走り出した。
続く
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カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
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