「あ、でもさ、見知らぬ男女が同じ部屋で暮らす、って
色々とマズいんじゃないの?」
「人間と霊だから大丈夫じゃないですか?」
「いや、私は良いけど、ほら、若い男の子だから
ご自愛とかそこらへんとか。」
「余計な心配はしなくて良いです!」
怒り出す青年に、霊がつぶやく。
「昨今流行りの “草食系男子” ってやつか、こいつは。」
「じゃ、あらためて自己紹介しますけど
ぼくは長野太郎、大学1年生です。」
聞いた途端、笑い転げる霊。
「ご、ごめん、でも、長野県の提出書類記入例とかに
絶対に使われていると思う。
長野太郎 長野花子 とかー。」
「・・・良いですよ・・・、大抵そういう反応をされますから・・・。
言っときますが、長野出身じゃないですからね。」
「長男でしょ?」
「はい。」
「ヘンな感性の親を持つと苦労だよねー。」
「・・・・・。」
「で、あなたは?」
太郎の質問に、霊が軽く明るく答える。
「はーい、なーんも覚えていませーん。」
「自分の名前もですか?」
「うん。」
「じゃあ、何と呼べば良いんでしょうか?」
「うーん、霊だから “霊” で良いよー。」
ノンキにヘラヘラ答える霊に、太郎が怒る。
「良いわけないでしょ!
それだと他の霊と区別が出来ないじゃないですか。
何かもっと良い呼び名を考えないと・・・。」
めんどくさいヤツだなあ、と思ったが
太郎の言う事ももっともなので、テキトーに考えた。
「んじゃさ、霊で零でゼロ、ってのは?
何かそういうゲームがあったと思うんだけど。」
「ゲーム、ですか?
そんなに古い霊じゃなさそうですね。」
「そうなんかな?」
「ええ、言葉遣いを聞いてても、そこまで世代の差を感じないと言うか
同じ時代を生きてた気がしますよ。
にしても、何だかあっさりしてますよね?
その性格で何で成仏しないんでしょうね?
心残りとか、思い当たる事がありますか?」
ちょっと考え込んでみたが、相変わらず何も思い出せない。
「それがまったくないんだよねー。」
「そうなんですか・・・。」
考え込む太郎に、ふとゼロが思いついて訊いた。
「ね、ちょっと鏡を見せてよ。」
「鏡なら、そこの風呂ですよ。」
「ちっ、これだから男は・・・。
姿見とは言わんけど、手鏡ぐらい持っとけよ。」
ブツブツ言いながらバスルームに行ったゼロが悲鳴を上げた。
「ひいいいいいいいいいいっ!」
血相を変えて、部屋に飛び込んで訴える。
「映ってないーーーーーーー!
私、鏡に映らないーーーーーーー!」
「霊なんだから、それは当たり前じゃないかと・・・。」
「ええーーー、自分の姿を見たいーーー!!!
あっ、写メして、写メ! 携帯で。
たまに写ってるじゃん、霊、写真とかに。」
面倒くさいヒトだなあ・・・
と今度は太郎が思いつつも、携帯を構える。
「念のため数枚ね。 はい、ピース。」
カシャッ
「写ってる?」
「うーん・・・。」
どれも単なる部屋の写真になってしまっていたが
1枚だけ光の玉が写っているのがあった。
「何? もしかして、これが私とか?」
「そうみたいですね。」
「オーブとかさ、ホコリの反射じゃねえかい、と思っていたんだけど
霊の場合もあるんだー? へえー。
でも、つまんねーーーーーーーー!」
フテくされるゼロに、おずおずと太郎が言う。
「あの、もう寝ても良いですか?
明日は朝一から講義があるんですよ。」
「待って、あなたには私がどういう姿で見えてるの?」
「ショートヘアの20代の女性ですね。」
「美人?」
「え・・・、よくわからないです・・・。」
「そうか、ブサイクなんか・・・。」
「い、いえ、そういう事は・・・。」
「気ぃ遣わんで良い。
じゃ、寝てよろしい。 おやすみー。」
「はあ・・・、じゃ、お言葉に甘えて寝させてもらいます。」
「ああ、金縛らせちゃったらごめんねー。」
「そういうの、ほんとやめてくださいね!」
「冗談だって。 すぐ怒るんだな、太郎はー。」
何だか不安だな、と怯えつつ寝たが
その夜はいつになく熟睡できた太郎であった。
翌日、太郎が目を覚ますと、ゼロが宙で横になって爆睡していた。
霊も寝るんか? と意外だったが、あまりにもグーグー寝ていたので
起こすのも悪くて、そのまま出掛ける事にした。
ヘンな霊と関わり合いになったような気がするけど
今のところ害はないし、まあいいか。
気楽に考えた太郎だが
それは若さゆえに、ゼロの本質を見抜けないせいであった。
続く。
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