血まみれちゃんも、すっかり馴染んだある日
ゼロが太郎にお願いをした。
「ねえ、私も大学に連れて行ってよー。」
「・・・別に良いですけど・・・。」
「わーい! 退屈してたんだよねー。
血まみれちゃんも来る?」
血まみれちゃんは、首を横に振った。
もう、はい いいえ の意思表示ぐらいは出来るようになっていた。
「んじゃ、血まみれちゃんはお留守番している間に
何か物を動かす練習をしててよ。
ポルターガイストとかあるじゃん
努力したら、飯のいっちょも作れるようになるかもだし。」
「幽霊の作ったご飯ですか・・・?」
「だって太郎、バイト先でのまかないばっかりじゃん、ご飯。
そんな食生活だったら、年取った時に体にガタがくるよー?
ねえ、血まみれちゃん、そう思わない?」
血まみれちゃん、うなずく。
死んでる人に心配されるとは・・・
太郎は複雑な気分になっていた。
「で、何でおんぶなんですか?」
太郎の背中に、子泣きジジイのように張り付いているゼロが答える。
「だって太郎と離れたら、アパートに引き戻されちゃうかも知れないじゃん。
それより、他の人には私は見えてないんだから
話しかけたりしたら、ひとり言を言ってる危ない人に思われるよ。
私は勝手に喋るけど、太郎は気を付けないと。」
これじゃ本当に取り憑かれているみたいだ・・・
太郎はゼロを連れて来た事を、少し後悔していた。
教室での講義中、大人しく子泣きジジってたゼロが声を掛けた。
「ねえ、さっきっから、すんげえ目が合うヤツがいるんだけど・・・。」
え? と、あたりを見回すと、遠くに座っている男性が
確かにこっちをチラチラ見ている。
「あの金髪のチャラ男、私をガン見してるんだよねー。
もしかして私が見えるんじゃないの?」
その男性は同じ学年ではあるが、華やかなグループにいて
地味で真面目な太郎とは、ほとんど接点はない。
その彼が太郎を見るのは、確かにおかしい。
ゼロさんの事が見えてたらイヤだな、と太郎は思った。
案の定、講義が終わった直後、太郎にチャラ男が駆け寄ってきた。
「えーと、俺、山口っつんだけど、おまえ何て言うんだっけ?」
「長野です。」
「あ、そう、長野、おまえ体調悪くねえ?」
太郎が動揺していると、ゼロが余計な口出しをした。
「私が太郎に悪さなんか、するわけねえじゃん。
ふざけた事ぬかしてると、おめえに祟るぞ、このチャラ男!」
「喋った!」
山口がゼロの恫喝に驚愕した。
「え? 山口くん、もしかしてゼロさんが見えるの?」
「ゼロ? この女? 見える見える。 こいつ霊だよ。
俺、昔っからそういうのに敏感でさー。」
「呼び捨てにしてんじゃねえぞ、呪うぞ、この野郎!」
「おー、凄えー! 何? こいつ、おまえの守護霊?」
説明するのも面倒なので、太郎は適当に答えた。
「う・・・ん、まあ、そんなもんかな?」
その時、仲間であろう女の子が山口を呼んだ。
「何やってんのー?」
「あ、今行く。」
山口の返事に、ゼロが止める。
「あっ、ちょお待って!
敏感っちゅう事は、私を写真に撮れるかも!!!
ちょっと携帯で写してみてくれない?」
「いいっすよー。」
チャラ男はストラップがジャラジャラついたデコ携帯で太郎を撮った。
「見せて見せて。」
画面には、白い光のようなモヤが掛かっている。
「地味な心霊写真だなあ・・・。
チャラ男、やっぱ使えんヤツだったな。
もう行ってよし。」
「うわ、勝手な女だなあ。
長野、おまえも大変だな、ま、頑張れよ。」
チャラ男は仲間のところに戻っていった。
「見たところ、遊び好きの派手グループってとこか。
太郎とは世界が違うヤツだな。
意外なヤツが私を見つけたねえ。」
「うん・・・。」
元気なく答える太郎に、ゼロが無神経に聞く。
「そういや、太郎、友達とかいないの?」
「バイト仲間とかはいるけど・・・
ぼく、忙しいし、あんまり遊べないんです。」
自分に言い聞かせるように答える太郎に
ゼロはうんうん、と偉そうに相槌を打つ。
「うむ。 友人は選んだ方がいいから、それは正解だな。」
太郎はその意外な言葉に、ちょっと気持ちが弾んだ。
「そうかな?」
「太郎も社会に出たら、私の言ってる意味がわかるよ。
大丈夫、おめえの道は間違ってないから。」
「おめえ・・・?」
「おっと、すまんのお、どうもどんどん地が出てきてるみたいだわ。」
この人は生前、一体どんな人だったんだろう?
太郎は疑問が増える一方だった。
でも、ぼくのやってる事は間違ってはいないんだ
ゼロの言葉に元気付けられ、それだけでも一緒にいて良かった
と、単純に嬉しくなった太郎だった。
続く
関連記事: 亡き人 4 10.11.26
亡き人 6 10.12.2
カテゴリー 小説
亡き人 1 10.11.17
コメントを残す