「よお、長野、次、何?」
「ああ、北海道教授の講義だよ。」
「それ、すげえレポート提出が多くて大変だろ。
去年それを取ったヤツを知ってるから、ノートを借りてきてやるよ。
コピーして持っとくとラクだぜ。」
「え、ほんと? 凄くありがたいよ。」
太郎は一気に充実した学生ライフになっていた。
心霊研究会のメンバーは、意外に個性的揃いで
彼らと一緒にいると、自然と知り合いが増えていくのである。
以前はひとりで食べていた昼食も、誰か彼か話しかけてきてくれる。
“縁を拒む必要もないだろ?”
ゼロの言葉が印象に残ったので
太郎は努めて周囲と馴染むように振舞った。
太郎は内向的ではなかった。
ただ、“友達を作る期間” を逃がした子供は
ガツガツしないと、中々輪にとけ込めないのに
そういう事に気が回らず
しかも真面目で大人しいので、人目を惹くタイプでもなく
結果、ひとりでいる事が多くなってしまうのである。
別に仲間外れにされているわけでもないし
何でもひとりで出来る。
他人がそれほど自分の事を気にしているわけではない
と、知っていた太郎は、“ひとり” を苦にせず
今まで、それで普通にやってこられた。
それが、山口たちとの交流で状況が変わった今
相変わらず勉強にバイトに忙しいのは変わらないけど
何となく気持ちにハリが出てきた、というか
同じ事でも、以前より楽しく出来るようになった気がする。
ひとりも気がラクだったけど
人といるのも良いかも知れない
太郎には、“他人” たちとの交流が
大切な時間になってきていた。
太郎たちが学食で昼食を取っていると
服を濡らした山口がやってきた。
「それどうしたの?」
福島が訊く。
「ああ・・・、元仲間の女に水ぶっかけられた。
『あっ、ごっめーん』 って。」
「もしかして、イジメに合ってんの?」
石川が直球で訊いてきた。
その言葉に、山口がハッとする。
「ああーーーっ、かも知んないー。」
テーブルに突っ伏した山口に、福島が突っ込む。
「おまえ、気付くの遅いよ。」
「にしても、うざいヤツらよねえ。
私が仕返ししてあげようか?」
岡山の言葉に、山口は驚いた。
「どうやって?」
「式神でも飛ばして。」
一同がドッと笑った。
「うそうそ、そんな芸当できないって。
無視が一番じゃない?」
「だよねえ。」
そう話がまとまりかけた時に
ふと太郎が笑って、何気なくつぶやいた。
「ゼロさんなら、どう答えるんだろうなあ。」
その言葉に、仲間たちが乗る。
「あ、あたしは、『ぶっ殺す!』 に1票。」
「ぼくは 『暴れる』 でー。」
「・・・てか、全員それじゃ賭けにならなくない?」
「おまえら・・・、俺の苦悩を賭けるんか?」
ちょっとムッとする山口だったが、ふと思った。
「でもゼロさんの反応、確かに興味あるよな。」
「それじゃあ、長野のバイトが終わる時間に駅前集合なー。」
という予定になった。
太郎は少し不安だった。
ゾロゾロと人を連れて行くと
ゼロの気分によっては、怒り出す恐れがあるからである。
続く。
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Comments
“亡き人 14” への3件のフィードバック
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あしゅさん、本年もどうぞ良い一年を!
この小説とってもいいですね。
こんな風にあしゅさんの内面をじっくり堪能できるものを、今年も期待しています♪ -
連載待ってました!!この小説好きなんです(^-^)できれば毎日書いてほしいくらいです。これからも楽しみにしてます!
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white、ありがとう。
そうか、内面バレバレか!
ああー、小説とか、そういう事になるんかー
動揺!じゃあ、今から謝っておこう。
ほんとすいませんゆみ、こんな日常のどうでもいい話
面白いかあ?
(書いてる本人が自らを全否定!)こっちでも謝っとく。
ほんとすいません。
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