「あの・・・、ゼロさんに店に来てほしいって
エリアマネージャーが・・・。」
言いにくそうに切り出す太郎に、ゼロが容赦なくイヤな顔をする。
「あああーーー? 何か私、コキ使われてねえ?
おめえのお友達とか上司にさー。」
「・・・すみません・・・。」
素直に謝る太郎に、ゼロはより一層憤慨した。
「おめえさ、仮にも弁護士を目指してるんだろ?
気の利いた言い訳のひとつも出来ないとマズくねえ?」
「はあ・・・。」
この返事にも、怒るゼロ。
「あーーーっ、企業の面接官の気持ちがわかった気がするー。
これが “ジェネレーション・ギャップ” ってやつ?
ね、太郎、筆記も大事だけど実技のスキルも付けるんだよ?」
「それはどうやって学ぶんですか?」
「人付き合い!
どんな時どんな場所でも、結局は VS・人 なんだよ。
ね?」
よりによって、血まみれちゃんに同意を求めるゼロ。
急な同意要請に流されて、慌ててうなずく血まみれちゃん。
ゼロが得意げに大声を出す。
「ほらあー、浮遊霊ですら付き合いを大事にしてるんだよー?」
ねーーー、と血まみれちゃんに向かって首を傾けるゼロに
血まみれちゃんも動揺しながら、頭を縦に振る。
「じゃ、血まみれちゃんも、付き合いで一緒に行く?」
ゼロが誘った途端、血まみれちゃんは青ざめて消えた。
「仰る通り、濃厚なお付き合いで・・・。」
つぶやく太郎に、ゼロがニッと笑いながら言う。
「その調子!」
この人の感覚がいまひとつわからないなあ
悩みながら靴を履く太郎に、ゼロがおぶさった。
待ち合わせ場所からは、エリアマネージャーの車で問題の店舗に向かう。
「・・・その体勢は何なんだね?」
車内でも、太郎の背にしがみつくゼロを見て
怪訝そうに訊くエリアマネージャーに、太郎が丁寧に説明をする。
「はい、移動している時は、この方が安定するらしいんです。」
「何となく、ってだけだけどね。」
お偉いさんに、無愛想タメ口のゼロ。
1店舗目に着いた。
「ここはね、一番奥の席がいつも空くんだ。
お客さんが座っても、すぐに帰ってしまう。
かと言って、回転が良いわけでもないんだよ。
あそこの席は、客単価が飛び抜けて低いんだ。」
「その理由は、もうわかってるよねえ?」
ゼロの問いに、エリアマネージャーが即答する。
「ああ、女性が座ってるのが見える。」
「じゃ、祓えばー?」
「祓ったんだけどねえ。」
「もー、しょうがないなあ。」
ゼロは太郎の背から降りて、女性に近寄った。
そしてクルクル回りながら叫んだ。
「ウルトラ☆ミラクル☆ゼロちゃんチョーップ!」
空中元彌チョップレベルの技なのに、女性はボフンと霧散した。
「おおーっ、凄い凄い!!!」
エリアマネージャーが拍手をする。
「あのお、すんませんが、ひとつお聞きしたい。
何で今、これをしなけりゃいけないんですかあ?」
ゼロの問いに、エリアマネージャーが改めて答え直す。
「いや、だから売り上げに響くぐらい・・・」
「じゃなくてー!」
ゼロがイライラしながら言う。
「おめえには私が見えてるだろうけど
他の従業員やお客には見えてないと思うよー?
おめえさ、端から見たら、無言の青年にしつこく話しかけて
ひとりではしゃいでいる気色の悪いオヤジなんじゃない?」
「ああっっっ!」
周りを見回し、その冷えた視線に大慌てするエリアマネージャー。
続く。
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