1店舗目から駐車場へと移動しながら
太郎の背中のゼロに責められるエリアマネージャー。
「大体、何で夜にすんの?」
「夜の方が見えるから・・・。」
「あのさ、って事は、霊は夜にパワーアップするんじゃない?」
「あ、ああ、そうだと思う。」
「決して、おめえのパワーアップじゃないよね?」
「・・・・・・、ああっ、そうかも知れない!」
ハッとするエリアマネージャー。
「何か私、昼夜あまり関係ないっぽいのね。
だったら、相手の力が弱まってる昼にやりたかったわ。」
「そうか、そういう事なら・・・」
「てかさあ、営業時間外にしないと
おめえの評判ガタ落ちだと思うよー?」
「ううっ・・・」
激しく落ち込むエリアマネージャーを
黙って見ていた太郎が、さすがに同情したらしい。
「ゼロさん、ちょっと言い過ぎですよ。」
その言葉に益々不機嫌になるゼロ。
心なしか、背中がずっしり重くなった気がする太郎であった。
2店舗目は線路の横だった。
店に入ろうとするエリアマネージャーを、ゼロが呼び止める。
「ちょっと待って。 ここで説明して。」
「あ? ああ、いいけど・・・。」
この店は、祓っても祓っても怪異が起こるという。
店の中に貼ってある御札も、すぐにボロボロになる。
霊能者は、ここが霊道だから定期的に祓わないとしょうがない
と言っているらしい。
「その霊能者に全店舗任せているのね?」
「ああ、前任者の時からの付き合いらしい。」
「その霊能者さ、ここで店の中だけやってた?」
「確か、そうだったはず。
どの店も外周りは何もしてないと思う。」
ゼロはそれを聞くと、考え込んだ。
「どうしたんだね?」
エリアマネージャーが訊くと、うーん と唸る。
「・・・これを言って良いのかわかんないけど
他の霊能者に替えた方が良いと思う。」
その言葉にエリアマネージャーが険しい顔をする。
「詐欺だと言うのかね?」
「その霊能者さ、ちゃんと能力はあると思う。
でも、あえてカモれる場所を何箇所か残してる気がする。
さっきの店舗の霊もさ、スッキリ祓えたはずなんだよ。
私のを見てたでしょ?」
「ううむ、確かに・・・。」
「そんで、ここさ、店が霊道なんじゃなく
この横の線路伝いに霊がどんどん通ってるっぽい。」
「えっ、霊って線路上を移動するの?」
驚く太郎に、ゼロがあいまいに答える。
「いや、それはよくわかんないけど、ここはそうみたいなのよ。」
「それじゃあ、店を祓っても無意味だというわけかね?」
「うん、店内の浄化より、店外に結界を張った方が良いと思う。」
「それはきみには頼めないのかね?」
エリアマネージャーの言葉に、ゼロが呆れた。
「よく考えて物を言えよ、私は霊だろ。
力勝負のバトルならどうにかなるけど
専門家じゃないと、そういう儀式みたいなんは無理だよ。
てか、自分をも祓う術なんか使えるわけがねえじゃん。」
「そうか・・・、じゃあ誰に頼めば良いものか・・・。」
アゴをさすりながら悩むエリアマネージャーに、ゼロが言う。
「でもさ、ここを試験場にすりゃ良いと思う。
ここで私と同じ意見を言う人なら
確かな腕を持ってる、って証拠だし
それにこんなカモ場、滅多にないし、誠実さも量れるよ。」
「おお、そうだな!
じゃあ、まずは霊能者探しだな。」
翌日、太郎にエリアマネージャーから電話があった。
「いやあ、夕べはどうもありがとう。
思った以上の成果に、感謝しているよ。
特別手当をはずむからね。
また何かあったら頼むよ、ゼロさんによろしく。」
いえ、とんでもない、お役に立てて良かったです
と、太郎が型通りの返事をして電話を切った後に
振り向くと、ゼロが仁王立ちをしていた。
「な、何ですか?」
「今の電話、エリアマネージャーからだろ?
相手が切るまで切らずに待ったか?」
「は、はい。」
「・・・んなら、良い。
それと、夕べのおめえの態度、60点ね。」
「それは低いんですか? 高いんですか?」
「普通。 ほんと、フツーーーーーー!」
ビビる太郎に、吐き捨てるように言うゼロ。
「自分の能力外の場面で、いらん主張をせんのは良い。
でも、フォローやサポートに回れる機会はあった。
どんな時でも常に、自分のやれる事を探さないと
相手に何の印象も持たれずに終わるよ?
わかった?」
「は、はい。」
オドオドしながら返事をする太郎に
怒ってばかりじゃなく褒めなくちゃ
と、珍しく気を遣ったゼロが、背中を向けながら言う。
「素直さは満点だけどね。」
思わぬ褒め言葉に、つい顔が赤くなる太郎であった。
続く。
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Comments
“亡き人 17” への2件のフィードバック
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ゼロさん,霊能専門家のみならず
キャリアアップカウンセラーとしての
才能もあるんですか!
いいですね。素敵なドラえもん…*太郎君はツイてますねー。
凄腕の霊が。 笑"(表現は某ゲームより) -
うん、ゼロはこの後も
色々と、でしゃばるんだ。てか、カウンセラーとか
凄腕とかじゃなく
ごくごく普通の常識の範囲じゃないか?
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