いきなりゼロが太郎の目前に現われ、一同は驚愕した。
「あー、アルゼンチン・ワープ、便利良いけど
ものすごく目が回る感じで不愉快なんだよなー。」
眉間を押さえてグチるゼロに、太郎が声を掛けた。
「あの、ゼロさん、どうしたんですか?」
太郎をキッと睨んで、ゼロが怒鳴る。
「どうしたもこうしたもねーよ!
おめえが毎晩遅いから、グレたんじゃねえかと
血まみれちゃんが心配してんだよっ!」
「あっ、ゼロさんだー。」
「すごーい、瞬間移動が出来るんだー。」
歓声が耳に入り、辺りを見回すと
心霊研究会のメンバーたちがいた。
「・・・おめえらかい・・・。」
ガックリするゼロに、メンバーからブーイングが飛ぶ。
「えー、あたしらじゃ不満なわけー?」
「うん、ちょっと期待してたんだよねえ
太郎に彼女でも出来たんじゃないか、ってね。」
「それはすいませんでしたねー。」
スネる女子メンバーたち。
「いやあ、エッチの真っ最中とかじゃなくて、良かったよー。」
ヘラヘラ笑うゼロに太郎が、やめてください、と怒る。
「で、ここはどこなんだ?
黒い家具だらけで忍者屋敷になっとるが。」
「あ、俺の部屋ー。
大学から近いんで、部室代わりになってるっつーか。」
「チャラ男・・・、やっぱおめえはアホだったか。
霊感があるのに、こんな黒い部屋に住むとは・・・。
悪霊来てくださいー、って言ってるようなもんだと思うが?」
その言葉に、山口が慌てる。
「えっ、そうなの?」
「うん、仏壇が並んでるようにしか思えんわ。
霊にはすんげえ居心地が良いんじゃね?」
「えええーーーっ、デザイン性を重視したのにーーーっ。」
嘆く山口に、ゼロが冷たい口調で優しい言葉を掛ける。
「今度から何かする時は、大人のヒトに相談しようねー?」
山口を不幸のドン底に叩き落した後に
振り向いて、今度は太郎を詰問し始めるゼロ。
「で? 何で最近遊びに目覚めたわけ?」
「え・・・、だってゼロさんが
『人付き合いをしろ』 と言うから・・・。」
意外なその言葉にゼロは驚き、そして考え込んだ。
「・・・そうか・・・
大学とバイトと勉強、の太郎のスケジュールだと
友人と付き合う時間もないもんな・・・。」
ゼロは太郎に頭を下げた。
「太郎、無責任な事を言ってごめん。
今の優先順位は、勉強だと思うんだ。
あれもこれも、は時間的に無理だよな。」
そして、メンバーたちを見回して言った。
「皆、頼む。
太郎が司法試験に合格するまで待ってくれ。
こんな夜の数時間でさえ、遊ぶと勉強の時間がなくなるんだ。」
いや、別に良いけど、という空気に
いたたまれなくなった太郎は、少し怒ってゼロに言った。
「ゼロさん、厚意で遊んでもらってるのに
“待ってくれ” なんて、勝手すぎますよ。
それに司法試験を誤解してるようですけど
大学卒業後に法科大学院に入って
それを卒業して、やっと受ける資格ができるんですよ。」
ゼロは目を丸くした。
「え? そうなの?」
「そうでなくても、僕の都合で
皆を振り回すわけにはいかないですよ。
さあ、帰りますよ。
皆、ごめんね。」
太郎の言葉に、自分の非に気付いたゼロがうなだれた。
「そうだわ・・・、私が勝手すぎた・・・。
皆、ごめんなさい。」
ゼロは、部屋を出た太郎を慌てて追いかけた。
そして足早に歩く太郎の首にしがみついて謝った。
「ごめんね、太郎
あなたの立場を悪くするような真似をしちゃったね。
出すぎた事だったよ、本当にごめんね、許して。」
太郎がどう答えて良いか迷って、無言でいると
それを拒絶と取ったのか、ゼロが立ち止まって泣き始めた。
太郎はもう怒ってはいなかったが、すぐに許すのもシャクに障るので
振り返って怒った口調で言った。
「やめてください!
霊がすすり泣いてる姿なんて、ほんと恐いんですから!
さあ、帰りますよ、早く来てください!」
ゼロは、ヒックヒックしゃくり上げながらも
太郎の背中にしがみついて来た。
“帰りますよ”
太郎は少し自分にガッカリした。
続く。
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