亡き人 20

ゼロも反省する事があるのか
しばらく口数も少なく、ションボリとする日が続いた。
太郎も、そんなゼロを見て見ぬフリをし
ふたりはお互いに何となく避け合っていた。
 
血まみれちゃんは、太郎とゼロの間に挟まれて針のムシロだった。
元はと言えば、自分がゼロにせかしたのだ。
首を振る事でしか、表現が出来ない血まみれちゃんは
無表情で、どんどんうつむいていくしか出来なかった。
 
 
数日後、ゼロは目まいを起こした。
気付くと、目の前に太郎と山口がいる。
「呼んだ?」
「はい。」
 
呼ばれるのは構わないけど、いきなり消えるんで
血まみれちゃんが動揺するのが可哀想なんだよな
ただでさえ最近、気を遣わせてしまっていたのに。
ショックを受けていないといいけど・・・。
 
それに私も、突然目が回るのは辛いし
何か他に連絡手段ないんかなあ
 
呼ばれた事も瞬時に忘れて
憮然と考えて込んでいるゼロに、太郎が言った。
「あの・・・、山口から同居を提案されたんだけど。」
 
そこでようやく、あ、呼ばれてたんだ、と気付き直すゼロ。
「へ? 同居? 何で?」
「あ、俺が説明するわ。」
山口が軽そうに言った。
 
 
「この前の忍者屋敷、あれ、俺名義のマンションなんだわ。
 大学の合格祝いに親父が買ってくれたんだ。」
 
その話に、ほーら、やっぱこいつ金持ちのボンだったろ?
と、今の今までギクシャクしていた関係も、再び瞬時に忘れて
自分の予想が当たった事を、盛大に太郎に誇るゼロ。
 
ゼロがいつものように、話し掛けてきたので
内心、安堵する太郎。
 
 
「でさ、俺、考えたんだわ。
 皆、長野と遊びたいし、ゼロさんにも会いたいんだ。
 長野が忙しいのって、生活費を稼ぐバイトのせいだろ?
 俺のマンション、大学の側で交通費いらないし
 家賃も光熱費もいらねえよ。
 これで長野、バイトを減らせるんじゃねえ?」
 
「ほお、チャラ男にしちゃ、良い案だなあ。
 中々やるじゃん。」
 
感心するゼロを、太郎がたしなめる。
「いくら友達だからって
 そこまで甘えるのはダメだと思うんだけど・・・。」
 
「うん、まあな。
 でもチャラ男には負担じゃないと思うよ。
 だからチャラ男、この話の許可を父ちゃんから貰え。」
 
 
いきなりの展開に、山口が反論する。
「え? 何で親父に?
 あのマンション、俺名義だと言ったじゃんよ?」
 
「学生の身分だからさ。」
ゼロがきっぱりと言った。
 
「子のすべては、親由来なんだよ。
 良い事も悪い事もな。
 親との関係は家庭によって違うけど
 たとえ自立をしてても、無視して良いって事じゃないだろ。
 ましてやおめえ、その住居は愛情でのプレゼントなんだし
 親が相手だろうと、きちんと筋を通せよ。」
 
 
ええー、めんどくせー、とゴネる山口に
ゼロが珍しく優しく語りかける。
 
「太郎を親父んとこに連れて行って、ちゃんと紹介しろ、な?
 大丈夫! 太郎なら、親は喜ぶ友達だ。
 そんで許可が出たら、家賃と光熱費の分配を話し合え。
 タダ住まいは、太郎の肩身が狭い。
 ま、太郎なら、出世払いも可だがな。」
 
意味深にニヤリと笑うゼロ。
太郎は何故か、“女衒” という単語を思い出した。
 
 
だが、ゼロの言う事はもっともである。
「うん、ゼロさんの言う通りかも知れないよ。
 親を無視して、勝手な事をしちゃいけないと思う。
 まずは、おとうさんと相談してみてくれよ。」
太郎がそう言うと、山口も考え直した。
 
「そうだな、一生付き合うつもりなら
 長野が俺の親とも仲良い方がラクだもんな。
 んじゃあ、近い内に実家に行ってくるわ。」
 
 
太郎と山口が、ふたりでうなずき合っているところに
空気を読まずに、ゼロが割り込む。
 
「で、太郎は今日もバイトなんだよね?」
「あ、はい。」
「うん、わかった。 頑張ってね。」
ゼロは駅の方へと飛んで行った。
 
山口のマンションなら、ゼロさんも大学と自由に行き来できるんだよな
太郎は、ふとそう思った。
 
 
にしても、確かに良い話だけど
そこまで甘えて良いものなのか?
 
ゼロはその話にはまったく触れて来ないので
太郎はひとりで悩んだが
“正解” と思えるものが出ない。
 
ゼロさんなら答を持ってる気がする・・・。
だけど、訊けない太郎であった。
 
 
 続く。
 
 
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      亡き人 1 10.11.17  

Comments

“亡き人 20” への2件のフィードバック

  1. 奈々のアバター
    奈々

    ttp://www.kahoku.co.jp/news/2011/01/20110123t11023.htm

    うん。これは良い条令だろ
    なんで、ダメなんかな?
    加害者のプライバシー?
    んな事より、被害者へのセカンドレイプの方が酷いよね。。。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    そういやさ、アメリカでやってる
    性犯罪者の現住所がわかるシステムで
    ちょっと思うとこがあるんだ。

    前歴者が近所にいる
    と、わかったとするじゃん
    どうするんだ?

    住民一致で団結して追い出すとする。
    どこでもそうしたいわけじゃん
    近所に前歴者なんて、いてほしくないから。

    そしたら前歴者はどこへ行くんだ?
    きっと前歴者の集まる場所ってのができるぜ。
    そしたら、前歴者の集団ができるんだぜ。

    人って、ひとりだと大人しい場合も
    集団になると、とんでもなく凶暴になるじゃん。
    そういう組織を作り上げる事になっちゃわねえ?

    今のところ、アメリカでは
    そういうトラブルは起こってないんだろうか?

    この宮城のは、GPSはどうかと思うけど
    DNA管理は賛成だな。

    と言うか、全国民、義務化してほしい。
    私がDNAや指紋を取られても
    不都合な事は何もないから。

    でも、それをするなら
    管理する側の責任が重大だから
    多分、無理なんだろうな・・・。

    管理されてた指紋を
    どっかの犯罪現場に付けられて
    「おまえが犯人だ!」 なんて冤罪
    恐すぎるもんな。

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