「臨・兵・闘・者・・・」
「あっ、九字切りしてる、すげえ早え!」
そんな場合じゃないのに、ゼロが思わず見とれていると
「波っっっ!」
と男が叫び、手の平をこちらに向けた。
「うわっっっ」
凄い風圧にヨロけるゼロ。
「ちょ、止めてくんない? ヘアーが乱れるじゃないの!」
「な・・・何?」
消えないゼロを見て、驚く男。
「はい、ちょっとお話を聞かせてくれるかなー?」
男の左右に、警官が2人立った。
霊感のない通行人からしたら
青年に一方的に怒鳴りつけているオヤジは
充分に通報対象者である。
警官のひとりが、太郎にも声を掛ける。
「どうしたのかなー?」
ゼロが太郎にせかす。
「知らない人に絡まれて困ってたと言え!」
「あっ、卑怯者!!!」
叫ぶ男に、ゼロが怒鳴る。
「ウソじゃないじゃん。
つーか、おめえ、それ以上いらん言動をすると
尿検査のあげく、ヘタすると措置入院させられるぞ。
普通の人には私は見えてないんだからな。」
「くっ・・・、ハメられた・・・。」
膝を付く男に、警官がギョッとする。
「おいおい、おとうさん、大丈夫ー?
どうしたの-?
ご家族、誰か呼べるー?
ちょっと署まで行こうかー。」
太郎は警官に、ゼロの言う通りに答えた。
「えっと、ぼく、この店でバイトをしてるんですけど
終わって帰ろうと店を出たら
そこにいたあの人と目が合って
それから、よくわからない事を言われて
どうしたら良いかと、困ってたんです。」
「ああー、そうー、知らない人なのねー。
あの人、酔ってるわけでもなさそうだし
支離滅裂な事を言ってるし、運が悪かったねー。
そういう時は相手をせずに、すぐ逃げた方が良いよー。」
「何かこの警官も、やる気のない事を言ってねえ?」
突っ込むゼロに、苦笑いをするわけにもいかない太郎。
男は警官に引っ張っていかれ
太郎は学生証提示ののち、放免となった。
太郎がゼロを見ると、ゼロはいつになく険しい顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「太郎・・・、あの男、笑かしよるけど、本物だと思う。
私、あいつに勝てる気がしない。
今度会ったら、退治されるかも知んない。」
「えっ・・・」
いつも無意味に自信満々なゼロが
珍しく弱気な事を言うので、余計に信憑性が増す。
電車の吊り革につかまりながら、窓を眺める太郎。
街の明かりに邪魔をされるけど
窓ガラスに自分の姿が映ってるのが見える。
その肩にゼロは見えない。
だけど横を向くと、肩に掛かった手が見え
ゼロが ん? と、太郎の顔を覗き込む。
もし、ぼくのアパートがあの人に見つかったら
ゼロさんたちに危険が及ぶかも知れない。
これは申し訳ないけど、山口くんに甘えるしかない。
山口くんのマンションなら、防犯がしっかりしている。
太郎は翌日、大学で山口に訳を説明し
改めて自分から同居のお願いをした。
続く。
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