「もうー、ゼロさん、今の驚いたよ、ひっどーい。
何で私が説教されなきゃならないのよ?」
「それは、だ。」
ゼロは両手をリズミカルに動かしながら歌い始めた。
彼女がいるのに、他の女を狙うって?
そんな男、別れろYO
股かけている女と学食でデート?
そんな男、別れろYO
しかもデートが、学食ランチ?
そんな男、別れろYO
クネクネと踊りながら、途中
ボッボボンッと口でパーカッションを入れつつ喋る。
「ついついディスっちゃったぜー。
私も、結構な芸達者だよね。」
飽きたのか、面倒くさくなったのか
急に素に戻すゼロ。
「てか、おめえも他の男と話すだろ
あまつさえ、男 (チャラ男) のマンションにも出入りしてる。
それを疑われるの、ウザくねえ?」
ゼロの言葉に、石川の表情が曇った。
「うん・・・、そうなんだけど
彼は私のする事に、あまり干渉しないし。」
その言葉を聞いたゼロは、気まずそうに頭を掻いた。
「・・・ああ・・・、もう自分で答は出てるんだね?」
石川の目から涙がこぼれ落ちる。
「うん・・・、彼とは私から告って
付き合ってもらってる、って感じで
連絡もいつも私からで
最近は何だかセフレでしかない感じで・・・。」
ボロボロと泣きながら、石川が途切れ途切れに喋る。
ちっ、しょうがねえ、とゼロは石川に言った。
「ちょっとここで、そのまま待ってろ。」
アルゼンチーン! で、太郎のところに行き、命令をする。
「石川が精神病院送りにされない内に
えーと、あっ、あそこのヘンな壷を隠し持って
さっきの教室に、すぐさま行って。」
「え? え? 何故そんな事に?」
「いいから、早く!」
教室に入った太郎は、即座にゼロの言葉の意味を理解した。
部屋の隅に向かって、ひとり号泣している石川の
周囲に遠巻きに人垣が出来ている。
ゼロから言われた通りに、太郎は動いた。
隠し持っていた壷を、ソッと部屋の隅に置き
石川に何事かを耳打ちする。
石川がハッと我に返り、振り返ると
離れたところから自分を見つめる無数の目があった。
「ちっ違うの、ごめん!」
石川は慌てて否定した。
「ここにある壷に向かって、願い事を唱えると叶う
って伝説を聞いて。
真剣に願えば願うほど、届くって言うから
うち、ちょっとお祖母ちゃんの具合が悪くて。」
どこの家のジジババも、何回かずつは殺されているものだ。
幸い、皆はその嘘を信じ込んだ。
が、その日以来、祈願者が耐えない教室になってしまった。
「ふっ・・・、またひとつ伝説を作ってやったぜ。」
勝ち誇るゼロを、太郎がいさめる。
「捏造ですからね、その伝説。」
「伝説ってのは、そういうもんよ。」
「・・・あまり調子に乗らないようにしてくださいね。」
太郎はゼロに、メッとした。
「なあ、何かおまえら、ラブラブじゃね?」
横から口を挟んできた山口に、ゼロが舌打ちをする。
「これだから、邪念だらけのチャラ男は・・・。
これはラブじゃなくて、愛なの!
わかってないなあ、チャラ男はあーーー。」
「ぼくだってわかりませんよ・・・。」
こっそりつぶやく太郎だった。
続く。
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