亡き人 28

石川事件以来、ゼロは時々大学構内をウロつくようになった。
 
「いい? 恋愛は相手に惚れさせて始めるべきだぞ。
 絶対に年増霊なはずの私が言うんだから、間違いないから!」
根拠なく、こう力説しちゃったもんだから
石川がどういう動きをしているか、責任を感じたのである。
 
 
しかしゼロは、ものすごい方向音痴だった。
この前の捏造伝説の教室の場所もわからない。
 
こんなウロウロしてるとこを太郎に見つかったら
きっと凄く怒られちゃうよーーー
ゼロは、構内の木のてっぺんに、天狗のように居座って
太郎以外の心霊研究会のメンバーを探した。
 
 
西の方で、ザワッと空気が波立った。
ふと見ると、石川がいる。
 
お、石川はっけーーーん!
ツイ と、真上に飛んで行くと、何と石川が男に怒鳴っている。
 
「ひどいじゃないの!」
 
ゼロが慌てて石川の前に降り立つ。
「はい! そこまで! ストップ!
 そこで止めないと、絶対に後で後悔するから!
 あーーー、見に来て良かったーーーーーーっ!
 ほんっと良かったああああああああああああ!!!」
 
「何で・・・」
口を開く石川を、誘導する。
 
「何も言うな、頼む、黙って聞いてくれ!
 人前での争いは、後々必ず後悔するから!
 消したい過去になるから!
 このバカ野郎は、って、誰か知らんけど
 私が霊障バリバリ当てとくから!
 いいから、こっちに来て!
 黒歴史を作る前に、きっと老女霊の私の言う事を聞いて!」
ゼロのあまりの剣幕に、石川は無言でゼロの後を追った。
 
 
人気のない裏庭にたどり着いて、ゼロはやっと止まった。
「で、どうしたの?」
 
「・・・彼が、今度のクリスマスは友達と飲み会だって・・・。」
そこまで言うと、ゼロの目を見た。
無言で見つめ合うふたり。
 
 
「えーと、じゃあ、おめえの1週間のスケジュールを
 教えてくれるかな。
 どこの講堂を使うかを明記して
 マンションのリビングに貼っておいて。
 私、その時間に合わせて行くから。」
ゼロが事務的に言う。
 
「え・・・、それは良いけど、何をしに?」
「良さげな男の物色じゃん。」
「でも、彼は?」
 
「は? 誰? それ誰?
 え? 違うと思うけど、もしかしてさっきの男なら
 おめえの人生には、もう1秒も関係ないんじゃない?
 そもそも私、ああいう感じの体育会系って嫌いなんだよねー。
 爽やかな卑怯者、っちゅうかさー。
 そんなどうでも良いヤツの事より
 今、付き合っとくべき男ってのはね・・・」
 
 
勝手に話を進めるゼロに、石川は吹き出した。
同時に涙も噴き出した。
 
うずくまって泣く石川の横に座り込んだゼロは
延々と “私が思う良い男” 論を展開した。
 
 
 続く。
 
 
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      カテゴリー 小説
               
      亡き人 1 10.11.17  

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