「なあ、ゼロさん、ここんとこずっといないけど
どこに行ってんだ?」
山口が訊くが、太郎にもそんな事はわからない。
「こういう事、今までもあったんか?」
横に頭を振る太郎。
「・・・・・・
なあ、何で喋らねえの?」
チャラ男にしては鋭いなあ
ゼロだったら、そう笑って誤魔化したであろう。
しかし太郎は、律儀に声を出して説明をしようとして
つい涙ぐんでしまった。
「・・・ゼロさん、 呼んでも来ないんだ。
どこにもいないんだ。
いる気配がないんだ!」
太郎は自分の発した言葉で、かえって感情がたかぶり
ワアッとテーブルに突っ伏してしまった。
その尋常ならぬ様子に、山口も激しく動揺させられた。
「心当たりとかはーーー
あれば探してるよな・・・。
おい、血まみれちゃん、ゼロさん知らね?」
血まみれちゃんはオドオドとするだけである。
山口はメンバーにも電話をしたが
もちろん行き先を知っているヤツなどいなかったが
皆も心配になったようで、集まってきた。
「あ・・・、でも・・・。」
石川が言った。
「先週の話なんだけど、ゼロさんが講義中に来たのよ。
その時は相手を出来なかったんで
終わった後に構内を探したのね。
そうしたら校門のところに、ヘンな人がいたのよ。」
「どんな人?」
「うん、ゼロさんとは関係ないだろうけど
マジシャンっぽい格好の?」
太郎は叫んだ。
「霊能者だ!!!」
太郎は両手で顔を覆った。
「どうしよう、ゼロさん、あいつを恐がってた。
きっと祓われちゃったんだ!!!」
「落ち着け、長野
とりあえずエリア・マネ-ジャーに
そいつの連絡先を聞け!」
山口が太郎の携帯を差し出すけど
太郎の手は震えて、携帯のキーを押せない。
メンバーたちは驚いた。
いつも沈着冷静な太郎が、そこまで取り乱すのを
初めて見たからである。
しかも未確定の段階で。
「私があの時ゼロさんを引き止めてれば・・・。」
石川は当然の後悔を口にする。
「そんな事は考えたらダメだよ、あんたのせいじゃない。」
岡山が当然の慰めを口にする。
「だけど、あの長野くんがあそこまでパニくるなんて・・・。」
「うん・・・、でも山口くんがいるから大丈夫だと思う。」
ふたりの意外な一面に、メンバーたちは
事を楽観視した。
しかし、現実はいつも醜悪な形を成す。
続く。
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