山口は父親の会社で働いていた。
どこに修行に出しても、身分を隠せないのなら
自分の下に置いていたい、という親心は少し甘いかも知れない。
しかしそのせいで、山口は秘密を見つける。
「おやじ、これ何だよ!」
1通の封筒を持って、社長室に飛び込んだ。
「会社では “社長” と呼びなさい。
って、どうしたんだね?」
山口の額から流血して、Yシャツにまでしたたっている。
「資料室を整理してたら、いきなり頭にこれが落っこってきたんだ!」
封筒の中にはDVDが入っていた。
マジックで 0 と殴り書きをされている。
「そ、それはおまえとは関係ない。
こっちに寄こしなさい。」
「いやだ!
これ、ゼロさんに関係あるんじゃないのか?」
山口はあまり頭は良くないが
時々、超人的な勘を発揮する。
山口パパは、溜め息をついた。
「・・・そう思うなら、何故すぐに観ないのかね?」
「恐いんだ!」
山口は、すがるように叫んだ。
「俺たちは皆、助け合って乗り越えてきたさ。
それはおやじも知ってるだろう?
それを見てきたおやじが隠すものなんだぜ?
俺たちが観て良いものなのかよ?」
山口パパは、目頭を押さえた。
「・・・歳のせいか、最近ちょっとした事で
心が動くようになってしまったな・・・。」
そして席を立って山口のところに行った。
「息子よ。
わしはおまえを誇りに思うぞ。
まさかおまえが、こんなに上等に育ってくれるとは。
どうヒイキ目に見ても、わしの手柄には思えんな。」
満足気にポンポンと山口の肩を叩く。
「時期が来た、という事だな。
我が息子よ、それを観ろ。
そして倒れて起き上がってこい。
わしは、獅子親の気持ちを味あわせてもらうぞ。」
山口が間の悪い事を言う。
「実際のライオンは、そんな事はしないらしいぞ。」
「・・・わかっておる・・・。」
山口パパは、無表情で再びチェアーに座ったが
内心むちゃくちゃ動揺していた。
えっ、あれは俗説だったのか?
「ゼロさんの臨終には、長崎くんが立会い
葬儀は、わしがした。
間に合わなかったと嘘を付いたのは
それがゼロさんとの賭けだったからだ。」
続く。
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