黒雪伝説・湯煙情緒 2

一週間に及ぶ、結婚のイベントをこなした直後
黒雪は議会で道路建設の指揮を取ると言い出した。
 
莫大な持参金と、大勢の従者を連れて来た大国の姫は
新参なのに、北国の城の中で既に一大勢力を持っていた。
「結婚したばかりなのに、早すぎませんか?」
せいぜいがこの程度の異議しか出ない。
 
 
「浮かれてる場合じゃないと思います。
 それでなくとも、年の半分は雪で身動きが取れないのだから
 動ける内に動いておかないと。」
 
この意見には、もちろん文句は出ない。
「ただ・・・、その・・・、お世継ぎも・・・。」
 
「私も王国で生まれ育った身。
 世継ぎの重要さはわかっております。
 出産は真冬にしますから。」
 
黒雪の言い切りに、会場はどよめいた。
妊娠出産を、そう都合良く出来るものか。
 
だが黒雪の強運さは、そこにあった。
雪が積もるギリギリまで、奔走しつつも
冬に見事に出産するのである。
しかも男女の双子であった。
これにより、北国での黒雪の地位は確固たるものとなった。
 
 
「はあ・・・、出産、すんごいしんどかったわ・・・。」
「お疲れ様でした。
 ありがとう、奥さま。」
王子は感動しきりである。
 
「さすが元ヘビ、多産させられるわー。
 卵で出て来い、っつの。
 双子、この国では不吉じゃないわよね?」
「はい。 むしろ幸運だと言われてるみたいですよ。」
 
 
王子の抱擁を受けながら、ベッドの上で黒雪は考え込んだ。
「何です?
 私の奥さまが恐い顔になっていますよ?」
黒雪の眉間をチョンチョンと王子が突付く。
 
「ああ、いえ、ちょっと気になったんだけど・・・。
 あの王さまって、実のお父さんじゃないわよね?
 王さまの奥さんはいないの?
 そこ、どうなってるの?」
ヒソヒソと王子に耳打ちする黒雪。
 
「この国は母のせいで消えていたらしいのです。
 それを作り直した上に、更に後から私を組み込んだみたいですよ。
 この国の人の記憶では、私は父王の嫡男となってます。
 父王の奥さん、この世界での私の母の事でしょうかね?
 とにかく王妃は、私を産んですぐ死んだ事になってますね。」
 
 
王子の話に、黒雪が首をひねった。
「国の再生はどれぐらい掛かったのかしら?
 あなたをそこに組み込むのは一瞬で出来たの?」
 
王子も少し顔を曇らせた。
「そこがよくわからないんです。
 いつ国の再生が完了したのか。
 でも私が組み込まれたのは、最後のようです。
 どうもところどころ、わからない部分があるんですよね。
 300年前の戦いの時から。」
 
「ふーむ、私たちの結婚も、偶然だけじゃないかもね。」
黒雪の言葉に王子は慌てた。
「えっ? 私はあなたを真剣に愛していますよ!」
 
「そこじゃなくて、この結婚は私たち以外の誰かにとっても
 何かの意味とか、目論みみたいなのがあるのかも、って話よ。
 もう! こういう頭を使う事はあなたがやってよね!
 私は労働担当だから。」
 
「・・・小人さんたちに言われた事を、根に持ってますね?」
王子がクスクス笑った。
「今度あいつらに会ったら、お礼をしないとね。」
鼻息を荒くする黒雪。
 
 
「ふふ、頑張ってくださいね。」
まるで他人事のように言う王子。
「・・・あなた、時々すごく冷たいわよね?」
 
ちょっと引く黒雪に、平然と答える王子。
「どうせ爬虫類ですからね。 ふん。
 でも、あなたにだけは何があっても忠実ですよ。」
 
「へえ? ハブ女王の息子だった事とか、ウソを付いていたのに?」
その言葉を聞いた途端、ガバッと黒雪にしがみつく王子。
「それは本当に謝ります。
 真実がわかったら、全部言いますから!!!」
 
 
え? まだ何か秘密があるの?
と黒雪は思ったけど、まあ、いいや、と流した。
 
筋肉脳は、太っ腹である。
 
 
 続く
 
 
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Comments

“黒雪伝説・湯煙情緒 2” への2件のフィードバック

  1. miuのアバター
    miu

    ハブ女王が温泉の大女将として登場するのかと思ってしまいました。

    なんか、凸凹カップルだけどラブラブですね。
    兄貴だなあ 白雪 *

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    おいおい、私はこの話で
    恋バナをする事を約束したろ?
    な? ラブラブだろ?
    任せんかいーーー!

    ・・・と、とりあえず誇ってはみたけど
    万が一は、ほんとすいませんー!
    (↑ このセリフを言わなかった小説がないのが
       我ながら悲しい。)

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