黒雪伝説・湯煙情緒 4

「王子さま・・・。」
廊下を歩く王子に、執事がスッと近寄る。
「王さまのご機嫌が少々お悪いようです。
 お気をつけください。」
 
「そこの調節を、何とか頼む。」
「はい、やってはみますが、難しいと思います。」
「王というものは、能のあるなしに関わらず
 気位だけは高いからな・・・。」
溜め息を付く王子。
 
「わかった。 何とかしよう。
 私たちが城を空ける時はおまえは残ってくれ。
 この3人の内のひとりは、必ず城にいるようにしよう。」
「御意。」
執事は黒雪に頭を下げ、去って行った。
 
 
「あの執事も妖精王に許してもらったのね。」
「はい。
 じいは私が生まれた時から側にいてくれた唯一の者です。
 一緒に来る事ができて、本当に助かりました。
 ・・・しかし逆にその厚意が不安なのですよね・・・。」
「どういう意味?」
 
「謀反人の息子に、この温情は過剰ではないですか?
 それとも、私が腹心をも必要とするほど
 この国の復活劇は大変なのでしょうか?」
 
「うーん、そう言われてみれば、手取り足取りよねえ。」
「何か違いますよね? その言い回し。」
「えーと、板れり突くせり?」
「ははは。」
 
 
王子は黒雪の肩を抱き寄せた。
この人がいてくれて本当に良かった、と心から思えた。
 
ひとりだったら、この寒い土地で国の復興など無理だっただろう。
いや、あの時のこの人の涙がなかったら
母の償いをしようなど、思いもしなかったであろう。
この人は、私に心を持たせてくれた。
 
 
王子は、黒雪に口付けをした。
途端、足を思いっきり蹴られた。
 
「うっっっ!!!」
足先を押さえてうずくまる王子。
 
「あ、ごめんごめん。
 でも歩きながら他の事をすると
 ほぼ八割方、痛い目に遭うわよ。」
 
 
「・・・・・・・・・・・」
王子は涙目で黒雪を見上げた。
黒雪はヘラヘラと笑っていた。
 
「・・・このぐらいの痛み、あなたは平気でしょうけどね・・・。」
「それどころか、自分の傷自慢に発展するけどね。」
「これだから肉体派は・・・。」
 
王子がブツブツ言いながらも、痛がってるので
黒雪が王子を抱きかかえた。
「ちょっと! 止めてください!!」
 
「部屋まで連れてってあげるわよ、痛いでしょ?」
「お願いですから、お姫さま抱っこだけは
 私から奪わないでくださいーーーーー。」
 
 
王子の号泣に黒雪は動揺し、慌てて床におろした。
「あなたには男のプライドなんかわからないんですっ!」
 
廊下に座り込んで、しかも女座りで泣き喚いている時点で
男の沽券は台無しじゃないだろうか?
 
 
とは言えないので、黒雪は王子の横にしゃがんで
ごめんね、と背中を撫ぜながら謝った。
 
王子と妃なのに、何をやっとんのか
ほら、家臣たちが遠巻きに見てるぞ。
 
 
 続く
 
 
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Comments

“黒雪伝説・湯煙情緒 4” への4件のフィードバック

  1. のとのアバター
    のと

    実はこの回が一番好きです。この黒雪と王子ならではの甘いだけじゃない(いろんな味がする。笑)ラブラブっぷりがお見事です!

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    えっ、この回が一番?

    すっげえ理解できないんだけど
    それを訊くのは、文豪として邪道だろうか・・・?
    でも、文豪としては
    “需要” ってのも考慮しないと。
    えっ? 文豪なら悟れって?
    ううう・・・、ごもっとも・・・。

    どこに書いたか忘れたんで
    一応、ここにも書いておくけど
    この回に出てくる “板れり突くせり”、
    これ、あえての誤字だからな。
    本当は多分、“至れり尽くせり” だと思う。

    けど私のパソコンのキーボード
    初手から自信満々に
    “板れり突くせり” と変換しやがって
    思わずそれを素直に受け入れそうになったよ。

    ウインドウズ7の変換、XPよりバカだぞ。

  3. のとのアバター
    のと

    文豪のお望みとあらば(^_^)
    う~ん、なぜだろう?
    あらためて自分のツボを分析すると…

    『この人がいてくれて本当によかった』
    と黒雪を愛おしむ王子の気持ちにジーンとし

    『王子の隣にしゃがんでごめんね、と背中を撫ぜながら謝った』
    黒雪のしぐさにキュンと(^_^*)
    そして最後にすかさず入るほどよいツッコミ

    …ってわたし!完全に感覚で読んでますね。笑

    でもあしゅさんの書くイチャつきは胃もたれしなくて好きです~

  4. あしゅのアバター
    あしゅ

    おっ、ありがとうーーー!
    ふむふむ、ほお、そこなのか!

    うーん、ピンとこないのは
    私の汚れまくった心のせいか?
    そこがイチャつきだとは思わなかったよ。

    ・・・・・・・・
    あーーー・・・
    過去のいらん自分を思い出しかけそうだ。
    この話、やっぱり血と臓物の惨劇にして良いかな?

    うそうそ、ラブラブに挑戦し続けるけど
    それ、イチャつきなのか・・・。

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