黒雪伝説・湯煙情緒 8

 ご苦労だったー
 
宙に声が響き、巨大な手が現われ、ウサギを掴んで消えた。
 
 
「誰ですか!」
叫んだのは王子である。
黒雪は振り下ろした包丁が宙を切り、反動で脳天からコケていた。
 
 この者の王である
 我々が他界で動くのはご法度
 始末に困っておったのだ
 
「え? 誰? 何だって?」
ノンキに空中に訊き返す黒雪を揺さぶり
黙らっしゃい! とパントマイムをした王子が
代わりに空へと質問をする。
 
 
「あなたのお仲間は、まだこの世界に散らばっていますよね?
 私たちに捕まえて欲しい、という事ですか?」
 
 うむ・・・
 生死は問わぬが、出来るなら生け捕りにしてもらいたい
 
「その報酬は?」
黒雪のセリフに、王子がギョッとする。
 
 何が望みだ?
 
制止しようとする王子を逆に押さえつけて、黒雪が叫ぶ。
「国内で今から300年間は、金、銀、鉄、銅
 500年後はダイヤモンド、ルビー、石炭、800年後には石油
 1000年後からはレアメタルが採れるようにしてほしいーーー!」
 
 
「な、何という欲張りな事を・・・。」
「この王さまには、このぐらい軽いもんだと思う。」
青ざめる王子と、平然としている黒雪。
 
 ふふ・・・
 界をまたぐ戦よりは安い、と値踏んだか 娘
 
 ならば、1匹捕える毎に鉱脈を教えよう。
 珍しくどちらにも損のない取り引きだが、やむをえぬ
 では、頼んだぞ
 
 
「・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・いなくなった?」
 
重く暗かった空気が一掃された途端、王子が頭を抱えて叫んだ。
 
「あああああああああああああっっっ!!!」
 
ビクッとする黒雪。
「ど、どうしたの?」
 
「あ・・・、あなた・・・、今のが誰か知ってるんですか?」
黒雪は、さあ? と首をかしげる。
王子はガックリ、肩を落とした。
 
「でしょうね・・・
 知っていたらああいう口は利けないでしょうしね。」
この言い草に、黒雪がムッとする。
「あなたのそういう誘い受けなとこ、イライラするわ。」
 
 
王子はカッとなり、黒雪の両肩を掴んだ。
「良いですか? おバカさん
 あれ・・・、多分、魔王ですよ!
 あなたは魔王と取り引きをしたんですよ!!!」
 
「まおう?
 魔界の王さまって事?
 何でここに魔王が出てくるの?」
 
黒雪の緊迫感のなさに王子は益々落胆したが、それもしょうがない事。
普通の人間は、他の “界” が現実に存在する事すら知らないのである。
 
 
王子は、しばらく無言で考え込んでいたが
頭の整理が出来たのか、話し始めた。
 
「一連の出来事で、私にもわからない事がいくつかあるんです。
 だけどそれも魔界が関わってたとしたら
 つじつまが合う部分もあるんですよね。」
 
 
 続く
 
 
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