「前に荒野に飛ばされた時に、私はここが魔界かと思ったんです。
普通、界の行き来は出来ないから
私も妖精界から出た事がなく、人間界の風景を知らなかったんです。」
たきぎを集めて回る黒雪姫の後ろを
ただ付いて来ながら、話す王子。
「それに、ウサギやトランプの兵、あの者たちに
妖精界の雰囲気を感じなかったんです。」
「私の事は人間だとすぐわかった?」
火をおこしながら、黒雪が訊く。
「・・・まあ、妖精界の者ではないんじゃないかな? みたいな?」
黒雪が横目でジロリと睨むので、慌てて言いつくろう。
「だから妖精以外、知らないんですって。」
「まあ、いいわ。 そんで?」
「ずっと抱いてきた疑問の答が、ひとつ見つかった気がするんです。」
深刻な話になってきそうなのに、黒雪は鍋を抱えてウロウロする。
「チッ、用意の順番を間違ったわ・・・。」
黒雪は岩陰の残り雪を鍋に入れ始めた。
「何をやってるんです?」
「・・・川、池、水溜り等がない・・・。」
「まさか、それでスープを作るんですか?
イヤですよーーーーー、泥混じりじゃないですか。」
「地べたを這いずる生き物のくせに、よく言うわ。」
「今は人間です!
ほら、水があるところまで歩きますよ。」
「ええええええ、もうお腹減ったーーーーー。」
「ん? 何だか前にも同じ展開があったような・・・?」
王子はしばし考え込んだが、ポンと手を打った。
「お茶会ですよ!」
「ああ! テーブルんとこに猫がいたわよね。
あれも、きっと魔界属性よね。
行って捕まえたら、鉱山が貰えるんじゃない?
・・・あれ? そう言えば、猫で思い出したけど
女王って・・・。」
黒雪が王子の顔を見る。
王子は、険しい表情になっている。
「答えなくても良いけど、あなたのママン、魔界出身?」
「答えますよ、そんな誤解!
母は魔界出身じゃありません。
妖精王と共に、妖精界を統べる立場のひとりでした。
だから “女王” と冠されているのです。」
「へえ、そんなお偉いさんだったんだー?
ショッカーの怪人のひとりのようなもんかと思ってたわ。」
「・・・失礼な・・・。」
集めたたきぎを抱えて歩く黒雪が、つぶやいた。
「ん? 何だかおかしくない?
ハブ女王って鏡に封印されてたんだよね。
妖精王はそれを知らなかったって言ってたよね?
あなたの存在も知らない、って言ってたよね?」
「ちょっと時系列を整理してみましょう。」
王子はリュックからノートを取り出した。
黒雪が慌てて先制した。
「夢見心地なポエムとか見せられるのは勘弁ね。」
王子は黒雪をゲンコしたが、最初に開いたページは閉じた。
ポエム、書いてたらしい。
実は見て欲しかったらしい。
続く
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