黒雪伝説・湯煙情緒 11

「それと、もうひとつ。
 結界の穴って、最低3回空いてるわよね?
 私が妖精界に迷い込んだ時と、ウサギもいれたら。」
 
王子は、ガッと振り返った。
「そうなんです!」
黒雪も勢い付いて言う。
「だよね? いかにも1回しか空いてなくて
 それが重大事故のようなニュアンスで言ってたよね、フクロウ。」
 
「ちょっと数えてみましょう、結界の行き来を。」
王子はノートに書き始めた。
 
 300年前、負けたハブ女王が鏡に封印され?人間界へ
 10数年前 謎の結界の穴から、何かが妖精界から飛び出した?
 黒雪姫 人間界から妖精界に迷い込む
 継母 人間界と妖精界を往復?
 ウサギによって、我々一同人間界へ
 
「え・・・? 5・・・回・・・?」
「えっとね、今気付いたんだけど
 ウサギ、魔界人だったんだよね?
 魔王が連れて行ったもんね。
 でも私たち、最初にウサギに会ったの、妖精界じゃなかった?」
 
「そうでした!!!」
王子が、あっ! という顔をした。
 
 
「え・・・? だとしたら、余計におかしいですよ。
 魔界人なのに、何故妖精界にいたんでしょう?」
 
「もういっちょ、不思議な事があるんだけど。
 あなた、さっき 『普通、界の行き来は出来ない』 って言ったよね?
 でもウサギ、ワープゾーン開けてなかった?」
 
王子が再び、あ!!!!! という表情になった。
黒雪が言い捨てる。
「何かさ、結界、ほんとに存在してんの?」
 
 
「・・・でも、妖精王さまがおっしゃってた事ですし・・・。」
「あのさ、妖精王が本当の事を言ってるとは限らないわよ?
 何で下々の者に、いちいち事実を知らせて
 説明せにゃならんの? って、私、思うもん。
 そんなんやってたら、物事を進められないわよ。」
 
「では私たちは、一生事実を知らされないかも知れないんですか?」
「うん、意味もわからず、コキ使うだけコキ使われて捨てられるの。
 でも政治って、そういうものじゃない?」
 
王子は感心したように溜め息を付いた。
「あなたって、本当に “王族” なんですねえ・・・。」
 
「何? それ皮肉か何か?」
黒雪の眉間のシワに、王子は焦った。
 
「いえ、とんでもない!
 迷いのない信念に惚れ直しているんですよ。
 そもそも出会った時から、あなたの風格には感銘を受けてたのですから。
 名ばかりの王子である私とは違いますよ。」
 
「何だかそれ、褒められてるように聞こえないわ。」
黒雪は不愉快そうな表情のまま、つぶやいた。
 
 
ふたりの足取りは、何となくトボトボ気味になってきた。
黒雪も結構な波乱人生だけど、王子の過去の方が哀れすぎる。
 
この人が甘えたがりなのは、過去を辛いと感じているからかも・・・。
 
そう思う黒雪は、結果オーライな性格なので
国を追われたり、殺されかけたりしたのも
箔付けにしているところすらあるのだ。
 
 
繊細な人だし、私が守ってあげないと。
黒雪は王子の手を握ろうとした。
 
自分らしくない行為に、顔が熱くなる。
多分自分は今、顔が赤くなっているのだろう。
意味もなく、ゴホンと咳払いをしたりする。
 
黒雪の指先が、王子の手に触れようとしたその瞬間
その手が前方を指差した。
 
「あっ、あそこに猫がいましたよ!」
 
 
 続く
 
 
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